肝硬変を治すには?病状別の治療法や原因について再生医療専門医が解説
公開日: 2020.02.24更新日: 2025.04.30
肝硬変と聞くと「治らない」「怖い病気」というイメージがあるかもしれませんが、医療の進歩により治療の選択肢が広がっています。
本記事では、従来の治療法から最新の再生医療まで、肝硬変に対する様々なアプローチを解説します。
また、病状の段階別の治療法や、日常生活で実践できる予防法についても詳しく紹介します。
- 肝硬変の従来の治療法と最新の再生医療
- 代償性・非代償性という病状別の適切な対応
- 肝硬変の原因と予防のための生活習慣改善法
肝硬変の治療について不安がある方は、この記事を参考にしてください。
目次
肝硬変を治すにはどんな治療がある?
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、症状が出にくいため発見が遅れやすく、従来の治療では「肝硬変は治らない病気」といわれています。
肝硬変に対する従来の治療方針と近年注目されている再生医療について解説します。
近年注目されている「再生医療」は、硬くなった肝臓を修復する可能性のある治療法です。
ここでは、従来の治療方針と合わせて解説します。
従来の治療方針
肝硬変の従来の治療方針は、根本的な治癒よりも「進行抑制」と「症状緩和」を主な目標としています。
硬化した肝臓組織を元に戻すことは困難であるため、患者さんの状態に合わせた対処法が重要となります。
肝硬変の従来の治療における主なポイントは以下の通りです。
- 原因疾患への対処(ウイルス性肝炎には抗ウイルス薬、アルコール性には完全禁酒)
- 栄養バランスの良い食事と適度な運動の維持
- 病状に応じたタンパク質摂取量の調整
- 腹水や肝性脳症などの合併症に対する薬物療法
- 定期的な血液検査や超音波検査による経過観察
- 重症例における肝移植の検討(ただしドナー不足の課題あり)
特に初期段階では生活習慣の改善を中心とした治療で病状を安定させることが可能なケースもあるため、早期発見・早期治療が重要となります。
肝硬変治療に注目されている再生医療
「肝硬変は治らない」という常識を覆す可能性を秘めているのが、再生医療です。
従来の治療法では難しかった肝臓組織の修復が、先端技術によって実現できる可能性があります。
再生医療による肝硬変治療のポイントは以下の通りです。
- 幹細胞を活用して傷ついた肝臓組織を修復・再生
- 「自己骨髄細胞投与療法」で一部患者の肝硬変が改善した実例あり
- 入院や手術不要で治療できる
- 患者さま自身の細胞を用いるため副作用リスクが少ない
再生医療は病気の進行を抑えるだけでなく、硬化した肝臓を元の状態に近づける可能性がある点が画期的です。
山口大学の研究では、患者さま自身の骨髄から採取した細胞を静脈注射する方法で、一部の患者さまが慢性肝炎の段階にまで回復したことが報告※されています。
※出典:Medical Note「肝硬変になった肝臓は再生可能? 他家間葉系幹細胞を用いた肝硬変の研究」
治らないといわれていた肝硬変の改善に期待できるため、多くの患者さまに新たな希望をもたらす可能性がある治療法です。
肝硬変の2つの病状に対する治療法
肝硬変は進行度によって大きく「代償性」と「非代償性」の2つの段階に分けられます。
代償性肝硬変では、肝臓はまだある程度の機能を保っており、症状があまり現れないことが特徴です。
一方、非代償性肝硬変になると、腹水や黄疸などの明らかな症状が出現し、より積極的な治療が必要になります。
どの段階にあるかによって治療方針は大きく変わりますので、医師の説明をしっかり理解しましょう。
代償性肝硬変
代償性肝硬変とは、肝臓が硬くなっていても、まだ十分な機能を保っている状態です。
この段階ではほとんど自覚症状がないため、健康診断や他の病気の検査で偶然見つかることもあります。
代償性肝硬変の治療目標は「これ以上悪化させない」ことです。
残念ながら、硬くなった肝臓を元に戻す薬はまだありませんが、原因に対する治療で進行を抑えることができます。
まず大切なのは原因疾患への対応です。
B型やC型肝炎ウイルスが原因なら、抗ウイルス薬でウイルスの活動を抑え込みます。
非代償性肝硬変
非代償性肝硬変は、肝臓の機能が著しく低下し、様々な症状が現れる肝硬変が進行した状態です。
この段階では、患者さまの生活の質を維持するために、合併症への適切な対処が重要となります。
非代償性肝硬変の症状と治療のポイントは以下の通りです。
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)の出現
- 腹水に対する塩分制限(1日5〜7g)と利尿剤療法
- 重度の腹水には「腹水穿刺(ふくすいせんし)」による直接排液
非代償性肝硬変では、上記のの症状が患者さんの日常生活に大きな影響を与えるため、家族の理解とサポートも大切です。
合併症の初期症状(意識の変化や腹部膨満感の増加など)に気づいたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
肝硬変になる原因は肝機能障害からの進行が多い
肝硬変は突然発症するものではなく、肝臓の慢性的な障害が徐々に進行して引き起こされます。
主な原因となるのは、B型・C型肝炎ウイルス感染や、脂肪性肝疾患です。
上記のような病気により肝臓に持続的な炎症が起こると、その修復過程で線維(瘢痕組織)が形成され、肝臓全体が硬く小さくなっていきます。
かつてはC型肝炎ウイルスが原因の割合が高く、肝硬変全体の約半数を占めていました。
肝硬変に進行する前に、原因となる肝疾患を治療することが重要です。
肝硬変の進行を防ぐ方法や予防法について
肝硬変は一度進行してしまうと完全に元に戻すことは難しい病気ですが、早い段階から適切な対策を取ることで進行を遅らせたり、発症そのものを予防したりすることが可能です。
特に近年の日本では、ウイルス性肝炎の治療薬が進歩したことで、ウイルスが原因の肝硬変は減少傾向にある一方、アルコールや脂肪肝など生活習慣に起因する肝硬変の割合が増加しています。
そのため、日々の生活習慣の見直しがますます重要になっています。
食生活を改善する
肝臓は「体の化学工場」とも呼ばれ、食事内容が直接肝機能に影響します。
肝硬変の予防や進行抑制には、日々の食習慣の見直しが欠かせません。
肝臓に優しい食生活を送るために、何を食べるべきか、何を控えるべきかを理解しましょう。
積極的に摂りたい食品 |
控えるべき食品 |
野菜・海藻・きのこ類(ビタミン・食物繊維が豊富) |
揚げ物・スナック菓子(高脂肪・高カロリー) |
魚(DHA・EPAが豊富) |
インスタント食品・ファストフード |
脂肪の少ない肉(鶏むね肉など) |
清涼飲料水・甘い菓子類(高糖分) |
大豆製品(豆腐・納豆など) |
塩分の多い食品(漬物・加工肉など) |
オリーブオイル・ナッツ類(良質な脂質) |
生の魚介類・加熱不十分な肉(感染リスク) |
コーヒー(適量) |
アルコール飲料 |
食事の取り方も重要で、一度に大量に食べるより少量ずつ規則正しく摂ることで、肝臓への負担を減らせます。
特に肝硬変の方は腹水悪化を防ぐため、塩分制限(1日7g以下)を心がけましょう。
肝機能が低下している方は食中毒リスクが高まるため、生ものは避けましょう。
禁酒・減酒する
アルコールは肝臓で分解される過程で、肝細胞にダメージを与えるため、禁酒・減酒が肝硬変の進行を防ぐポイントです。
お酒の飲む量が多く、期間が長いほど肝臓の線維化(硬くなること)が進行します。
肝硬変や肝がんを予防するためには、「肝硬変になる前にお酒をやめること」が効果的です。
すでに肝硬変と診断された方は、それ以上の悪化を防ぐために禁酒が強くすすめられます。
肝機能低下や肝疾患はすぐに治療する
肝硬変の多くは、肝機能障害や肝疾患が長期間進行した結果として発症します。
そのため、前段階である肝炎や脂肪肝などの早期発見と適切な治療が非常に重要です。
例えば、B型・C型肝炎ウイルスに感染している方は、自覚症状がなくても放置すると肝硬変や肝がんへ進行する恐れがあります。
早期に適切な治療を行えば、肝硬変への進行を防げる可能性が高まります。
肝炎ウイルスは自覚症状がないまま肝臓を傷めることが多いため、過去に輸血を受けた経験がある方や感染リスクがある方は一度検査を受けることをおすすめします。
【まとめ】肝硬変を治すには再生医療による幹細胞治療を検討しよう
肝硬変は一度発症すると完全な治癒は難しいものの、早期発見と適切な治療により進行を抑えることが可能です。
従来の治療法は進行抑制と症状緩和が中心でしたが、再生医療という新たな選択肢が登場し、肝機能の回復に期待が寄せられています。
肝臓の健康は日々の生活習慣に大きく左右されますので、この記事の情報を参考に、ご自身やご家族の肝臓を守る取り組みを始めてみてください。

監修者
渡久地 政尚
Masanao Toguchi
医師
略歴
1991年3月琉球大学 医学部 卒業
1991年4月医師免許取得
1992年沖縄協同病院 研修医
2000年癌研究会附属病院 消化器外科 勤務
2008年沖縄協同病院 内科 勤務
2012年老健施設 かりゆしの里 勤務
2013年6月医療法人美喜有会 ふたこクリニック 院長
2014年9月医療法人美喜有会 こまがわホームクリニック 院長
2017年8月医療法人美喜有会 訪問診療部 医局長
2023年12月リペアセルクリニック札幌院 院長