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あきらめていた病気に対処できる幹細胞治療!その内容や治療方法とは? 幹細胞治療という言葉を聞いたことがあるでしょうか。実は現代の医療で最先端の、副作用などがほとんどとなくそれでいて大きな効果が期待できる治療方法なのです。この幹細胞治療はあらゆる分野で活用され始めていますが、美容の世界などでも積極的に取り入れられています。 そこで今回は、幹細胞治療とはいったいどういうものなのか、そしてどのような効果が期待できるのかという点について解説していきます。 幹細胞治療とは何か? そもそも幹細胞治療とはどのようなものなのでしょうか。 幹細胞治療とは再生医療の一種 再生医療という言葉は聞いたことがあるでしょうか。幹細胞治療とは再生医療の1つの方法です。 人間は約60兆個の細胞で構成されていますが、その細胞の中に幹細胞というものがあります。幹細胞とは、細胞分裂の元になるもので、いわば細胞の母体です。再生医療とはこの幹細胞を身体に注入することで、身体の欠落している部分を再生させたり、減少して来ている部分を補ったりする、最先端の治療法です。既存の医薬品では治療が困難な病気やケガ、あるいは治療法が確立されていない病気に対して、効果をもたらすものとして注目されています。 近年、日本人を始め人間の平均寿命は大きく伸長しましたが、同時に細胞の老化が元となっている慢性的な病気も増えており、このような病気を完全に治す治療法はまだ見つかっていません。しかし再生医療であれば、そのような今まで医師が治療をあきらめていた病気の場合でも、治療を施すことができるのです。 ただし再生医療や幹細胞治療はどのような病院、どのような医師でも行うことができるものではありません。再生医療は使い方を間違えるととんでもない悲劇を巻き起こす可能性があります。したがって、再生医療や幹細胞治療を行う場合には、その実施機関や実施方法について、法律に基づく厳しいチェックがなされます。ですから再生医療や幹細胞治療を受ける場合には、治療のための治療計画を厚生労働省に提出し、認可されている医療機関を選ぶことが非常に重要です。また再生医療や幹細胞治療を行う医師にも高い専門知識と十分な経験が必要です。この点にいても、治療を受ける場合には事前の確認が必要でしょう。 幹細胞治療とは注射で幹細胞を注入する方法 約60兆個の細胞からできあがっている人間の身体ですが、しかしその最初はたった1個の受精卵です。この受精卵が細胞分裂を繰り返し、身体のあらゆる部分の形も機能も異なった多様な細胞に成長します。皮膚、脳、心臓、手足は全く違う臓器であり身体の一部ですが、元は1個の受精卵だと思うと非常に不思議でしょう。このような細胞が多様な組織や臓器に変わっていくことを「分化」と言います。 しかし細胞には寿命があります。細胞の寿命が来ると、その細胞は分化することも、増殖することもできなくなり、やがて死んでしまいます。たとえば、皮膚から垢が出ますが、これは皮膚の細胞が死んで、身体からはがれ落ちていくことです。しかしそれでも皮膚が一定の状態を保てているのは、古い皮膚が死んでも、また新しい皮膚の細胞が補充できているからです。このような分化して完全に身体の臓器や、皮膚、や血液などに分化し終わった細胞を「体細胞」、これから多様な分化を行う細胞を「幹細胞」と言います。 幹細胞には「体性幹細胞」と、受精卵から培養して作られる「ES細胞」、人工的に作成「iPS細胞」があります。 この3つの中で現在最も再生医療に使われているものが「体性幹細胞」です。体性幹細胞は人間の身体の中にある細胞が元になっているので、使用しても身体に副作用を起こりにくく、最も治療に応用しやすいものです。さらに体性幹細胞にもいくつか種類があります。その代表的なものは「間葉系幹細胞」です。そして間葉系幹細胞の中でも、最も治療に多く用いられているのものが脂肪から抽出されたものです。これを脂肪性幹細胞とも言います。 脂肪性幹細胞は、ES細胞やiPS細胞などの幹細胞に比べ発がんのリスクが非常に低く、また身体の中から取り出すことも簡単で、患者に負担をかけないため、現在どんどん医療の最前線で使われています。 具体的に脂肪幹細胞を使った幹細胞治療はどのようなものかと言うと、聞いてしまえば意外に簡単です。それは身体の脂肪を採取し、その中の幹細胞を増やして、また身体の中に戻してやり、欠落した組織や減ってしまった細胞をそこから増やして、再生させる方法です。 このように治療行為としては非常にシンプルなので、幹細胞治療は入院の必要さえありません。基本的には日帰り治療で可能な方法です。 幹細胞治療の効果は?どのような種類がある? では幹細胞治療はどのような悩みに効果があるのでしょうか。 美容治療として 1つは美容のための治療に活用されているということです。たとえば顔のシワは顔の皮膚の奥深くにある真皮層が加齢などのために減少し、その減ってしまった真皮層の部分が、皮膚表面で凹んでしまうことによって発生します。しかし幹細胞治療は、その真皮層になるべき幹細胞を注入するので、真皮細胞が再生し、その結果シワが消えてしまうというものです。 シワを改善させる美容医療には、ボトックスやヒアルロン酸などと言った、薬剤や身体の成分そのものを皮膚に注入して行う方法が今までは一般的でしたが、しかしそれらは薬剤が代謝されてしまうことで、効果が生まれている期間に上限がありました。しかし幹細胞治療であれば、そもそもの細胞の増える母体を注入してあげることなので、期間的な上限はありません。原則として、幹細胞治療を行えば、不足している、あるいは欠落している細胞が増殖していきますから、いつまで若々しい肌でいられるのです。 このように幹細胞治療は美容の世界において画期的なシワ、たるみなどの防止、改善効果をもたらすものなのです。 またボトックスにしてもコラーゲン注入にしても、何度も繰り返さなければならないため、トータルとして治療費は非常に高くなってしまいます。しかし幹細胞治療は原則として1回で済むので、トータルでの治療費も非常に安く済むのです。その意味で幹細胞治療による細胞治療による美容医療は極めてコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。 関節炎などの改善 主に加齢によって生じる膝などの関節炎は非常につらいものですが、これらの関節炎は関節の軟骨がすり減ったり、関節の接続をスムーズにするコラーゲンなどの成分が減少することによって起こるものなので、抜本的な治療法がない悩みでした。 しかし幹細胞治療によって、軟骨やコラーゲンの元となる幹細胞を注入できるので、関節は若いころのように再生し、嘘のようにその悩みを解消してくれるのです。 関節炎の幹細胞治療には2つの方法があります。1つは関節鏡を用いる方法で、これは関節にカメラを差し込み、患部を見ながら幹細胞を注入するものです。もう1つは注射を用いる方法で、患部に幹細胞の含まれる薬剤を注入するものです。関節鏡を用いる方法は患部に確実に幹細胞を送り届けられるので確実ですが、身体に小さな穴を開けるので、患者には多少の負担がかかり、場合によっては数日の入院が必要になります。しかし注射であれば、治療後、患者はすぐに身体を動かすことができるので、日帰りで治療を受けることが可能です。 肝炎の治療 肝炎は肝臓の一部の細胞が壊死、あるいは機能不全になっている状態です。この肝炎にも幹細胞治療を行うと、壊死している肝臓に代替する肝臓を再生させることができるので、飛躍的な改善が期待できます。ただし、肝臓の場合はカメラを挿入することも、注射で幹細胞を注入することも難しいため、方法としては点滴で幹細胞を送り込む方法になります。点滴で輸入された幹細胞は血液に乗って肝臓に到達し、壊死した肝臓や機能していない肝臓の細胞を修復し再生させます。 糖尿病の治療 糖尿病は、血液中の血糖(ブドウ糖)が多くなる病気です。これは、すい臓が何かしらの原因で本来持っている血糖値を一定範囲におさめる働きができなくなる病気です。また、糖尿病は一度発症したら完治しない病気と言われています。しかし、幹細胞治療をすることにより、すい臓が本来持つ機能を取り戻すように幹細胞が働きかけ、正常に血糖値をコントロールするようになる可能性があります。 脳の疾患の治療 今まで脳梗塞などによって機能不全になってしまった脳には効果的な治療の方法がありませんでした。しかし幹細胞治療によって、幹細胞を脳に送り込んでやれば、機能不全になっている脳細胞を再生させることができるため、脳の損傷によって起こっていたさまざまな障害を改善させることができるようになってきました。 自己免疫疾患の治療 自己免疫疾患とは、自分の細胞が暴走し身体に害を働くようになった病気で、これもまた抜本的な治療法がないものでした。たとえば膠原病や、慢性関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎、慢性甲状腺炎などがそれに当たります。できることはせいぜいステロイドなど身体に大きな副作用のある薬剤を注入して、病気の発症を抑えたり、症状を緩和させることでした。 しかし幹細胞治療によって注入される幹細胞には、身体の免疫を調節したり、過度な反応を抑制する作用があるので、このような治療方法が見つからない自己免疫疾患に対しても極めて高い治療効果が得られるようになりました。 幹細胞治療の流れは 幹細胞治療の流れは以下のようなものです。 最初に専用の器具によって、腹部など脂肪が豊富にある部位から脂肪を少量、具体的には1/1000g(米粒2つから3つ分程)という単位で採取します。採取時間は数分で、局所麻酔を使うため、痛みはほぼありません。 そして採取した脂肪から幹細胞を分離させ、培養します。 その培養した幹細胞を患部に注入します。また培養した幹細胞は冷凍保存できるので、治療を再度行いたい場合でも、その凍結している幹細胞を利用することができます。 幹細胞治療にはリスクはあるのか? このように画期的で、今まで治療が難しいと思われていた病気に大きな効果をもたらす幹細胞治療ですが、リスクはあるのでしょうか。 幹細胞治療は、自分自身の幹細胞を使用して損傷または弱ってきた組織を修復することで、痛みを無くしたり、失われた人体機能を回復させる治療です。 そのため、拒絶反応が起こりにくくリスクはほとんどありません。 まとめ いかがですか。 幹細胞治療は今まで治療が不可能だと思われていたさまざまな病気を治してくれる画期的な治療方法です。もしも上で挙げたような悩みを持っているようであれば、幹細胞治療を検討してはいかがでしょうか。 当院の紹介はこちら
2021.01.06 -
- 糖尿病
糖尿病ってどんな病気? 目次 糖尿病とは インスリン 1型糖尿病と2型糖尿病 関連する合併症 検査と診断 治療 糖尿病とは 普段わたしたちが食べている食べ物は大きく分けてたんぱく質・脂質・炭水化物の三大栄養素に分けられます。健康な人でも炭水化物(ブドウ糖)を摂ると一時的に血糖値が高くなりますが、時間とともに正常値に収まります。 糖尿病の人の場合、この血糖値が正常値に戻らず高い状態になります。これは「インスリン」という膵臓から分泌されるホルモンの分泌が少なかったり、「インスリン」が正常に働かないことが原因です。 この国の糖尿病患者は生活習慣(食生活など)や社会環境の影響もあり昨今増加しています。糖尿病は一度発症すると、完全に治癒することはありません。放置すると網膜症・腎症・神経障害などの重篤な合併症により失明や透析治療を要することもあります。 糖尿病は発症する原因によって「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他」「妊娠糖尿病」のタイプに分けられます。 インスリンとは インスリンは血糖値(からだの中のブドウ糖の量)を減らすホルモンです。インスリンは膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島とよばれる場所にあるβ細胞(ベータさいぼう)で作られています。 炭水化物は消化酵素のはたらきにより、ブドウ糖に分解され、小腸から吸収されます。このとき、小腸からGLP-1とよばれるホルモンが血中に放出されます。 血液のなかのブドウ糖が増えると、このホルモンが血液を介して膵臓にインスリンを放出するように命令します。その結果、ブドウ糖を臓器や筋肉に取り込ませます。また体の中の筋肉などに送りこまれたブドウ糖を、解糖系と呼ばれる体を動かすエネルギーに変えることを促進します。このようにしてインスリンは血糖値を調整するはたらきを持っています。 1型糖尿病と2型糖尿病 1型糖尿病 1型糖尿病はこどもや青年に多く、若年性糖尿病とよばれることもあります。膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が壊されたり、障害されることで発症します。 最初に風邪の様な症状があり、そのあと喉が渇いたり尿の量が多くなったり急激にやせるなどの症状がみられます。原因はまだ不明なことが多いですが、自己免疫性が発症の90%を占めています。 自己免疫は本来、体の外の敵から自分の体を守るためにはたらくものですが、誤って自分のからだのβ細胞を標的にしてしまうことが発生の原因と言われています。この発症にはウイルス感染と関連があるといわれています。主なものエンテロウイルス(いわゆる風邪)・ムンプス(おたふく風邪)などです。 1型糖尿病はインスリン依存型糖尿病(IDDM)とよばれ、ほとんどの場合インスリン療法が必要不可欠となります。 2型糖尿病 2型糖尿病は最も一般的な糖尿病で、糖尿病のうち90%以上がこの2型糖尿病です。40歳を超えたあたりで発症することが多いです。この国では男性にやや多く発症します。 太っている人・または過去に太っていた人に多いといわれていますが、太っていなくてもインスリン感受性の低い人は発症することがあるので注意が必要です。原因はさまざまで、体質や、高カロリーな食生活・高脂肪食・運動不足などの生活環境の組み合わせでの発症が考えられます。 遺伝によって発症することも知られており、親が糖尿病だったという人が多いのもこのタイプの糖尿病の特長です。その結果、インスリンの分泌量や作用不足(効きにくくなる)が起こります。このインスリンの作用不足はインスリンの分泌能が低くなるという原因と、肝臓や筋肉がインスリンに対する抵抗性(効きにくくなる)が原因となります。 インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)ともよばれますが、治療にインスリンを用いることもあります。 症状は2型糖尿病の場合、初期症状はほとんどなく、早期発見が難しいです。悪化するにしたがって、口の中が渇く(口渇)、喉が渇きやすくなる(水分を多く摂るようになる)、トイレが近くなる、体重が減る、疲れやすくなるといったような症状がみられます。また、血糖値が上がりすぎると、意識障害を起こすことがあります。 さらに悪化すると、糖尿病網膜症(目の網膜にある血管に出血がおこったり、異常な血管が出来てしまうことで視力が低下したり失明などを引き起こす)、糖尿病性腎症(腎臓の血管が破壊されることにより、腎臓の機能が低下し、腎不全などを起こす)といった合併症がみられます。 一度発症すると完全に治ることはありません。 要因 2型糖尿病は遺伝によっても発症しますが、ストレスや肥満や過食・運動不足によっても発症する生活習慣病の一つです。そのため、このような要因を心がけていれば未然に防ぎ糖尿病になりにくい日常生活を送ることが出来ます。 昨今、2型糖尿病が増えている背景には急速な食の欧米化が挙げられます。もともとアジア人はインスリンの分泌能が低いため、こうした食の欧米化に膵臓が対応できず、血糖値の高い状態となります。このような食生活を改善し、カロリーを必要以上に摂ることなく生活を送ることが食事療法の基本となります。 関連する合併症 合併症の中には急性合併症と慢性合併症があります。急性合併症は、糖尿病ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群があります。慢性合併症は血糖値が高い状態を放置していると、血管をボロボロに傷付け、動脈の老化を進めることで起こります。血管病には大きい血管が障害される大血管症と、小さい血管が障害される細小血管症に分けられます。 糖尿病ケトアシドーシス 糖尿病ケトアシドーシスは血糖値を下げるインスリンが作用しないことで起こります。ブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなるため、からだは代わりに脂肪をエネルギーとして分解しエネルギーを作り出します。脂肪を分解するとケトン体という物質が血液中に増えます。これにより血液中が酸性になり、ケトアシドーシスになります。 重度な脱水状態になり、急に喉が渇いて水をたくさん飲んだり、尿がたくさん出て全身のだるさがみられます。吐き気や腹痛がみられることもあります。また、高血糖状態により意識障害や昏睡になることもあります。 インスリンの不足で起こるので、1型糖尿病を発症したときや、インスリンを適切に投与されなかったときなどに起こります。また、適切に投与していた場合でも、全身状態が悪い時などは高血糖状態となりケトアシドーシスとなることがありますので、こまめな血糖値測定が必要となります。 1型糖尿病だけでなく、2型糖尿病でもジュースを大量に飲んだ時などに起こることがあります。これはソフトドリンクケトーシスとよばれ、1日に何リットルもジュースを飲んだ際などに大量の糖が血中を流れ、血糖値の急上昇が起こります。それにより昏睡状態になることがあります。インスリン注射を必要としていない患者さんにも起こり得るので注意が必要です。 高浸透圧高血糖症候群 高浸透圧高血糖症候群は糖尿病ケトアシドーシスと同じく高血糖をきたす急性合併症です。重度の高血糖状態と極度の脱水や意識障害を引き起こします。高齢者に多く、感染症や嘔吐・下痢による脱水などの糖尿病以外の病気が引き金になることもあります。 大血管症 高血糖状態が続くと、大血管では動脈硬化が進行します。動脈硬化は糖尿病をはじめとして、高脂血症や高血圧症、喫煙などでも起こりやすいです。初期の動脈硬化は動脈の内側の壁にさまざまな物質が沈着して分厚くなったり、硬化したり、プラークとよばれる隆起ができます。このプラークが剥がれることによって血管で詰まることにより、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患(PAD)などさまざまな合併症を起こします。 脳梗塞は脳の血管が詰まることで発症します。突然の意識障害や意識消失、左右どちらかの手足の麻痺、ろれつが回らなくなるといった症状を引き起こします。場合によっては一時的に症状が治まることもありますが、時間が経つにつれて症状は悪化しますので注意が必要です。早期に受診出来るかが今後の予後に大きくかかわるので早急に医療機関へ受診しなければいけません。 心筋梗塞は心臓の血管が動脈硬化により狭くなることで発症します。狭くなった心臓の血管に血栓などが詰まることにより心筋が酸素不足になり壊死します。血流が止まると約20分で心筋の壊死がはじまり、一度壊死した心筋細胞は元には戻らないので早期に処置が必要となります。初期には体を動かすときに胸が痛くなり、安静にしていると収まる狭心痛が特徴的です。 細小血管症 細小血管症は細い血管が集中している場所で合併症が起こります。主に、眼・腎臓・神経です。 まず眼の網膜の中の血管に障害(網膜の中の血管に出血したり、異常な血管ができる)によって、視力の低下や、失明が起こります。 腎臓は血液をろ過し、体に不要なものを体の外へ排出する役割を持っています。このろ過に関与する糸球体とよばれる場所の毛細血管が壊されることによって腎臓の機能が低下します。これを腎不全といいます。 腎症が進行するにしたがって、薬で血圧を下げなければならなくなったり、たんぱく質を厳しく制限された食事療法などが必要となります。さらに進行すると、人工透析により機械で血液をろ過することが必要となります。 神経は細い血管によって栄養されています。神経細胞への血流が障害されることで、神経に障害が起こります。手足にしびれがでたり、感覚や痛みにも鈍感になっていたり感じにくくなっているため、足のケガややけどに気付かずに壊疽(えそ)になることがあります。場合によっては足を切断することになります。 その他の合併症 その他の合併症は感染症や歯周病があります。糖尿病の患者さんは肺結核・尿路感染症・皮膚感染症などの感染症にかかりやすい状態になっています。とくに足の皮膚感染症は壊疽につながりますので注意が必要です。また、口内での細菌感染が起こりやすいので、歯周病が悪化することが知られています。 検査と診断 糖尿病の検査では血糖値の測定があります。健康な人でも食事のあとは血糖値の上昇がみられますが、インスリンの分泌により血糖値は徐々に下がります。 早期空腹時血糖検査では検査当日の朝食を食べていない状態での血糖値を測定します。早期空腹時血糖検査で126mg/dl以上で糖尿病型と診断されます。 随時血糖検査では食後からの時間は定めずに血糖値を測定する検査です。随時血糖値が200mg/dl以上の場合は糖尿病型と診断されます。 75gOGTT検査では検査当日の朝までに10時間絶食した状態で血糖値を測定したのち、75gのブドウ糖を溶かした水溶液を飲んで30分と1時間後と2時間後に再度測定するという検査です。この検査は高血糖状態で行うとさらなる高血糖状態を招くことになるので、明らかな自覚症状がある場合は診断に必要ではない検査です。 HbA1cは血液中の赤血球の一種であるヘモグロビン(全身の細胞に酸素を送るはたらきをしている)にくっついている糖化ヘモグロビンを測定する検査です。高血糖状態であればあるほどヘモグロビンに結合するブドウ糖の量は増えます。赤血球の寿命は約120日であり、過去1~2ヶ月の血糖値を測定することができますので、検査直前の食事や運動などの影響は受けない検査となります。 以上の検査で、 ・早期空腹時血糖値126mg/dl以上 ・75gOGTT2時間閾値200mg/dl以上 ・随時血糖値200mg/dl以上 ・HbA1cが6.5%以上 のいずれかで糖尿病型と判定されます。さらに別の日に同様の検査をして再び異常があれば糖尿病の確定診断となります。 また、この検査で「糖尿病型」「正常型」を判定する際に、どちらともいえない「境界型」とよばれる判定が存在します。これは将来糖尿病の発症のリスクが高いことが示唆されますので、6ヶ月~1年で定期的な検査をすることを推奨されます。 また早期に食事療法や運動療法を行うことで未然に防ぐことができますので、生活習慣を見直すことが推奨されます。 治療 糖尿病の治療において最も重要なことは血糖値をコントロールすることです。薬物療法では、「経口血糖降下薬」「注射療法」が挙げられます。 経口血糖降下薬 ・SU薬(スルホニル尿素薬)は膵臓のβ細胞に作用し、インスリン分泌を促す薬です。 ・BG薬(ビグアナイト薬)は肝臓での糖新生を防ぐ薬です。また、筋肉のブドウ糖利用を促す働きもあります。 ・インスリン抵抗性改善薬は脂肪細胞に作用することでインスリン抵抗性を改善し、インスリンの作用を高めることが出来る薬です。 ・α-グルコダーゼ阻害薬は糖質の分解を抑えることで急激な血糖値の上昇を防ぐ薬です。 注射療法 血糖値を下げるホルモンであるインスリンを直接補充する治療法で、1型糖尿病の患者さんには不可欠な治療となります。2型糖尿病では以前は末期にのみ行われる治療でしたが、食事療法や運動療法、前述の経口血糖降下薬での血糖のコントロールが出来なかった場合や、治療開始時や治療中断時に高血糖状態の場合に用いることも増えました。インスリン製剤は効果時間や持続時間によって超即効型・即効型・混合型・配合溶解・中間型・持続型溶解などのタイプがあり、患者さんの状態に合わせて使用されます。 小腸のL細胞から分泌されるホルモンであるGLP-1(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド-1)は血糖値を下げるはたらきがあります。GLP-1受容体作動薬は、そのはたらきを注射によって補う治療となります。 空腹時にははたらかず、食事により血糖値が上がった際にはたらくため、低血糖を起こしにくいですが、他の薬との併用での低血糖に注意が必要となります。また、食欲を抑える作用もあるとされています。 その他の治療法 薬物療法以外にも、食事療法や運動療法が不可欠となります。 食事療法での適切なカロリー摂取量は、年齢・性別・体格・運動量によって異なります。その患者さんに合った指示カロリー量を超えないことが基本です。特定の栄養素を制限する必要はなく、適正なカロリーを規則正しく摂取することが大切になってきます。 運動療法は糖尿病治療の基本の1つです。運動を行うと筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が促進され、血糖値が低下します。さらに、インスリンの作用もよくなり、血糖のコントロールもよくなります。運動の種類としては、散歩や自転車、水泳といった有酸素運動を中心に、筋トレなどの無酸素運動をバランスよく組み合わせるとよいでしょう。 一度発症すると完全に治ることのない糖尿病ですが、血糖値をコントロールすることにより、健康な人と同じように生活を送ることが可能な病気ですので生活習慣や食生活や運動療法を継続して行うことが重要となります。 まずは予防についてもご覧ください 監修:リペアセルクリニック大阪院
2020.07.21 -
- 糖尿病
糖尿病は検査での早期発見が重要!糖尿病と診断される症状は? 糖尿病の検査で行われる血糖値測定。それは初期段階での自覚症状が少ない糖尿病の早期発見につながります。こちらでは糖尿病と血糖値の関係や、糖尿病と診断される条件など、糖尿病の検査について紹介していきます。 不規則なライフスタイルから糖尿病を懸念されている方は、これから検査を受けるにあたりぜひ参考にしてください。 こちらも併せてご参照ください 血糖値の測定が糖尿病発見のカギになる 血糖値とは、血液中にあるブドウ糖の濃度を示す数値のことです。この血糖値を測定することが、糖尿病の早期発見につながります。糖尿病は初期段階で目立った自覚症状がない病気です 血糖値と糖尿病の関係 進行するにつれて、尿の量が異常に増える多尿や、尿が出る回数が増える頻尿などの症状が見られるようになります。 しかし、これらの自覚症状が見られる段階では、すでに病気が進行してしまっていると考えられます。 そのため、自覚症状がないうちから血糖値を測定し、糖尿病の早期発見につなげることが大切なのです。 そもそも糖尿病とは、血糖値が慢性的に高くなる「高血糖状態」が続いてしまう病気です。人間が食事をして血液中にブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌されます。 健康であればインスリンが分泌された結果、自然と血糖値は下がっていきますが、インスリンの分泌量が少なかったり、インスリンの働きが悪かったりすると、高血糖の状態が慢性的に続いてしまうのです。 したがって、血糖値を測定することは糖尿病を発見するカギになるといえます。 健康な人の血糖値 血糖値は空腹時で110mg/dl未満、負荷後120分では140mg/dl未満が、健康な状態での正常値です。 それに対して、下記のいずれかの条件を満たすと糖尿病型と診断されます。 〇早朝の空腹時で血糖値が126 mg/dl以 〇負荷後120分で血糖値が200mg/dl以上 〇75gOGTT2(75g経口ブドウ糖負荷試験)時間値200mg/dl以上 〇HbA1C(JDS値)が6.1%以上 ※HbA1Cは糖化ヘモグロビンの割合のこと 血液検査での血糖値の測定が糖尿病の診断になる 糖尿病の診断は、血液中にブドウ糖(血糖)がどれくらいあるのかを測定する検査によって行われます。しかし、血糖値は食事の影響を受けて数値が変動するため、検査方法にはいくつかの種類があります。 血糖値を測定するそれぞれの検査方法について理解しておきましょう。 随時血糖検査 随時血糖検査とは、食事の時間とは関係なく採血を行い、血糖値を測定する検査のことです。随時血糖値が200mg/dl以上ある方は糖尿病型と判断されます。 この場合は糖尿病が疑われますので、さらに詳しい検査を行います。随時血糖検査で糖尿病型となり、かつ血液検査でHbA1cの値が6.5%以上である場合には、糖尿病と診断される可能性が濃厚になります。 早朝空腹時血糖検査 早朝空腹時血糖検査は、朝食を食べる前の空腹状態で採血を行い、血糖値を測定する検査のことです。食事を取ることで血糖の血中濃度が変わるため、検査前日から実施まで10時間以上の絶食を行います。 正しい検査結果を知るためにも、この間は水以外の飲食物を口にしない必要があるため、必ず医療機関の指示に従いましょう。空腹時血糖値が126mg/dl以上ある方は糖尿病型と診断されます。 75g経口ブドウ糖負荷試験 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)では、ブドウ糖液を飲んだあとに血糖値の測定を行います。なお、検査で使用するブドウ糖液には、ブドウ糖75gを水に溶かしたものか、あるいは相当量のデンプン分解物が用いられます。 まずは検査当日の朝まで10時間以上絶食し、空腹時の血糖値を測定します。その後、ブドウ糖液を飲み、30分・1時間・2時間後にそれぞれ採血を行い、血糖値を測定していきます。 75gOGTTで、2時間後の血糖値が200mg/dl以上ある方は糖尿病型と診断されます。 尿検査による尿糖値の検査も 糖尿病の診断には尿検査が用いられることもあります。血糖値が170~180mg/dlを超えると尿中に糖が出ます。 しかし血糖値が基準値より大きく超えないと尿に糖は排出されないので、尿検査のみでは糖尿病の診断はできません。 早期に発見したい場合には血糖検査が必要です。尿検査はあくまで定期的な検査によって、まだ自覚症状のない糖尿病の患者の方をふるい分けするためのものといえます。 糖尿病だと判断される値は? 糖尿病は検査結果によって「糖尿病型」と「正常型」に分けられます。糖尿病型と判定され、一定の条件を満たした方が糖尿病と診断されます。 糖尿病と診断される条件 糖尿病と診断されるまでには、同日または別日に複数の検査が行われます。まず、検査結果が下記のいずれかに当てはまる場合は糖尿病型と診断されます。 ただし、「糖尿病型=糖尿病」というわけではありません。上記①から③のいずれかと④が確認された場合において糖尿病と診断されるのです。 一度の検査だけで糖尿病と診断されるのではなく、複数回の検査で糖尿病型が確認され、さらに一定の条件を満たすことで糖尿病と診断される流れとなっています。 正常型と診断される条件 糖尿病型に対して正常型と診断される条件もあります。早朝空腹血糖値が110mg/dl未満である場合や、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値が140mg/dl未満である場合には、正常型と診断されます。 ただし、空腹時血糖値が正常であっても、負荷試験を行うと血糖値が高い場合があるため、詳しい検査を行うことが大切です。 特に、空腹時血糖値は正常型であっても食後血糖値が上がる幅が大きい場合には、食後高血糖が疑われます。この場合、気がつかないうちに糖尿病になっていたり、合併症としての動脈硬化などの心配もあります。 健康診断で早朝空腹時血糖値が正常であっても油断は禁物です。 糖尿病型でも正常型でもない境界型とは 糖尿病の検査を行った結果、糖尿病型でも正常型でもない「境界型」と判定されることがあります。 境界型と判定された方は、現状の生活習慣をそのまま続けていると糖尿病やその合併症を引き起こす可能性がある状態にいると考えましょう。 判定後から早めに糖尿病の予防に取り組めば、発症を抑えることができる段階ともいえます。 まとめ・糖尿病は検査での早期発見が重要!糖尿病と診断される症状は 糖尿病の検査方法には空腹時血糖値の測定やブドウ糖負荷試験など複数の方法があり、そこから糖尿病型と分類され、さらに一定の条件が満たされると糖尿病と診断されることになります。 糖尿病は放置することで合併症を引き起こすリスクがあります。初期段階では自覚症状が少ないため、気づきにくい病気です。 自覚症状が見られる段階になるとすでに糖尿病が進行してしまっているため、早期発見のためにも定期的に検査を受けるようにしましょう。 以上、糖尿病は検査での早期発見が重要!糖尿病と診断される症状は!と題して記載しました。ご参考にしていただければ幸いです。 監修:院長 坂本貞範
2020.04.01 -
- 糖尿病
糖尿病を改善・予防する食事・運動のポイント|内科専門医師が配信 医療機関で糖尿病と診断された方や、検査で「糖尿病予備群」あるいは「糖尿病の境界型」と判定された方へ向けて、糖尿病を改善する生活習慣について紹介します。 糖尿病は初期段階での自覚症状がほとんどないため、早期に発見、対処することが大切です。これから始める糖尿病治療や糖尿病予防のために、ぜひ参考にしてください。 糖尿病の95%は食事や運動などの生活習慣が原因! 糖尿病は慢性的に血糖値が高くなる病気です。この状態が長く続くと、体内の臓器に悪影響をおよぼし、さまざまな障害が発生します。しかし初期段階では自覚症状はほとんど見られません。 糖尿病は、本人が気づかないうちに病気が進行してしまうおそれがある、日ごろから注意しておきたい病気です。糖尿病は悪化するとさまざまな合併症を引き起こします。 特に「3大合併症」と呼ばれる糖尿病網膜症・糖尿病腎症・糖尿病神経障害は、日常生活に支障が出る後遺症の危険性が知られています。さらに脳卒中や心筋梗塞といった、命にかかわる病気を併発するリスクもあるのです。 そんな糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他病気や遺伝子異常が原因の糖尿病」「妊娠糖尿病」という4種類に大別されます。 こちらも併せてご参照ください なかでも、国内の糖尿病患者の95%は2型糖尿病であるといわれています。2型糖尿病の主な原因として挙げられるのは、食生活や運動不足などの生活習慣です。 こちらも併せてご参照ください 糖尿病の原因となる食事を紹介|メニュー見直しで病気を予防 ライフスタイルの見直しを検討しなければいけません。ここからは、糖尿病の4つの種類について、それぞれの特徴を紹介していきます。 1型糖尿病 1型糖尿病は比較的年齢の若い方の発症が多い糖尿病です。1型糖尿病は、すい臓でインスリンを作っている「β細胞」が何らかの原因によって破壊され、体内のインスリンが不足することで起こります。β細胞が破壊されてしまう原因について詳しいことは明らかになっていません。 1型糖尿病の治療では、インスリンを補うべくインスリン注射を行います。病気は進行性であり、悪化すると体内でインスリンがほとんど分泌されない状態になるため、インスリン注射は必須となります。 2型糖尿病 2型糖尿病とは、インスリンが分泌される量が不足する「インスリン分泌不全」や、インスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」によって血糖値が高くなる症状です。 これらは主に遺伝的要因や生活習慣などの環境による要因から引き起こされます。日本国内の糖尿病患者のうち95%の方が2型糖尿病であるといわれるほど、多くの方が発症しています。 2型糖尿病は生活習慣を改善することで糖尿病を発症するリスクや進行を抑えられる可能性があります。 その他、病気や遺伝子異常が原因の糖尿病 1型糖尿病や2型糖尿病のほかに、がんなどのほかの病気や遺伝子異常などが原因となって、糖尿病を発症することがあります。場合によっては薬剤が原因となるケースもあるようです。 妊娠糖尿病 妊娠糖尿病は、厳密には糖尿病ではなく、妊娠中の糖代謝異常のことをいいます。妊娠によって初めて発症した糖代謝異常のことを指し、妊娠前から発症していた糖尿病は妊娠糖尿病には含めません。 妊娠糖尿病では、母親に妊娠高血圧症候群・網膜症・腎症などの合併症や流産が起こるおそれがあるほか、胎内の子供にも形態異常・低血糖・多血症などのリスクがあります。 母親には妊娠中の血糖値を管理するための食事療法とともに、インスリン注射によって血糖値を下げる治療が行われます。 糖尿病を改善するには 糖尿病は完治するのが難しいといわれますが、治療を継続して適正な血糖値を保つことができれば、健康的な生活を送れます。 血糖値をコントロールするうえで重要なのは、これまでの生活習慣を見直し、改善することです。 特に2型糖尿病では生活習慣が原因となっていることが多く、基本的にはライフスタイルの改善が治療の中心となります。それでも血糖値をコントロールできなかった場合は、併行して薬物療法を取り入れていきます。 糖尿病治療におけるライフスタイルの改善には、主に「運動療法」と「食事療法」が行われます。 運動療法とは、酸素を使って体内の糖や脂肪を消費する有酸素運動を継続することで血糖値を下げやすい体を作ることです。 食事療法とは、毎日の食生活で摂取するカロリーを適正な範囲に制限するとともに、栄養バランスを整えることによって、血糖値を下げる食習慣を作ることです。 薬物療法が開始されてからも、糖尿病治療の中心となるのは運動療法と食事療法となります。血糖値をコントロールするために継続して行いましょう。 運動療法のポイント 有酸素運動により酸素の消費が促されると、血糖値を下げる効果が期待されます。こちらでは、運動療法のポイントを紹介していきます。 運動の種類・運動の強度 代表的な運動療法には有酸素運動が挙げられます。具体的には、ウォーキング・ジョギング・サイクリング・水泳など、酸素の消費を高める運動のことです。 血糖値を下げる効果が期待されるため、血糖コントロールのために必ず取り入れましょう。 運動療法の強度は、運動の種類によって異なります。強度の低い運動の一例は、ウォーキング・ラジオ体操・平地でのサイクリングなどです。 強度が中程度の運動としては、ジョギング・坂道でのサイクリング・階段の上り下りが挙げられます。強度の高い運動にはバスケットボールや水泳などが該当します。 運動療法を継続するには、無理なく楽しく行える運動を選ぶことがポイントです。また、ハードな運動はかえって体に負担をかけてしまう可能性もあります。 運動後に脈拍が100~110回/分に達するような運動を目安として考えてください。 1回の運動量・運動の頻度 運動療法は継続することで効果が発揮されます。運動の頻度として3日に1回または週に2回のペースを保つとともに、運動量は1回あたり30~60分を目安に時間を確保しましょう。 運動の注意点 運動療法は体に負担をかけない範囲で行いましょう。また、網膜症や心臓病などの病気がある方は、運動を避けたほうがよい場合もあります。 糖尿病治療のために運動療法を行うときは、医師の指示のもとで体を動かすようにしましょう。 食事療法のポイント 食事療法では、食事から過剰な糖分を摂取する習慣を正すことで血糖コントロールを行います。また、食習慣を見直しは食べ過ぎによる肥満の予防にもつながります。 こちらでは、食事療法のポイントを紹介していきます。 一日の適正エネルギー量を摂取する 食事療法では、摂取エネルギーの量を適正範囲に制限することから始めます。まずは、ご自身が1日に必要とする総エネルギー量を知り、それ以上のエネルギーを摂取しないよう改善していきましょう。 適正エネルギー量は、身長から割り出される標準体重と身体活動量から算出します。医師から指示された適正なエネルギー量を守った食生活にしていきましょう。 栄養バランスの良い食事を食べる 食事療法では、摂取エネルギーを抑えながらも、栄養バランスの良い食事を取ることが大切です。あらゆる食品はタンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルに分類されます。 これらがバランス良く含まれるような献立とし、栄養に偏りのない食習慣を継続しましょう。 1日3食、規則正しい時間に取る 朝食・昼食・夕食で均等にエネルギーを摂取することも健康的な血糖値を保つためのポイントです。また、毎日の食事を規則正しく取ることも重要です。できるだけ毎日同じ時間帯に食事をしましょう。 糖質に注意する 血糖値を高める原因となる栄養素は糖質です。米や小麦などの穀類は糖質が多いため、食べ過ぎに注意してください。意識して糖質を控えながら、満腹感を高めることがポイントです。 よく噛んでゆっくり食べる 食事療法では食べ方にも工夫が必要です。食事の際は早食いを避け、よく噛んで食べることが大切です。ゆっくりと食べることにより、糖質の急激な吸収を抑えやすくなります。 特に、野菜・きのこ・海藻・こんにゃくといった食物繊維が豊富な食材は、咀嚼回数が増えるため満腹感を得られます。 その他注意したい生活習慣 さらに見直すべき生活習慣として「喫煙」が挙げられます。タバコを1日に20本以上吸う方は糖尿病を発症するリスクが高まるといわれています。 タバコを吸わない方と比較したとき、男性で1.4倍、女性では3.0倍、糖尿病を発症しやすくなるという調査結果もあるほどです。 さらに「飲酒」も見直すべき生活習慣です。アルコールを1日に1合以上飲んでいる方は、飲まない方と比較したときに、男性で1.3倍も糖尿病を発症しやすくなるという調査結果があります。 また、高血圧症の方は、そうでない方と比べて男性で1.3倍、女性で1.8倍、糖尿病を併発しやすいといわれていますので、こちらも注意が必要です。 「糖尿病予備群」あるいは「糖尿病の境界型」と言われたら 糖尿病の検査をしたとき、「境界型」と判定が出ることがあります。境界型とは、糖尿病と診断されたわけではないものの、やや血糖値が高い状態にあることから、将来的に糖尿病が心配される「糖尿病予備軍」のことです。 特に2型糖尿病は、徐々に血糖値が高くなり進行していく病気であるため、境界型の判定が出た時期から食事療法や運動療法を始めましょう。 糖尿病の早期発見には検査を受けること 糖尿病は悪化するまでほとんど自覚症状のない病気です。糖尿病予備軍である境界型の段階でも目立った自覚症状がないことから、治療の必要がないと考える方も少なくありません。 しかし体内ではすでに血糖値が高くなり、大きな変化が起こっているのです。自覚症状がなくても生活習慣の見直しは不可欠です。 糖尿病にできるだけ早く気付くには、医療機関で詳しい検査を受けることです。 健康診断など簡易的な検査では判定されない場合でも、食後に急激に血糖値が高まり下がりにくくなる「食後高血糖」のおそれもあります。 これらを放置すると徐々に血糖値が高まり、糖尿病につながりかねません。早期発見と早期対処で糖尿病を予防しましょう。 まとめ・糖尿病を改善・予防する食事・運動のポイント 糖尿病と診断された方や、検査で「糖尿病予備群」あるいは「糖尿病の境界型」と判定された方は、運動療法と食事療法を中心として、糖尿病の改善および予防につとめましょう。 国内の糖尿病患者のうち、大部分の方は2型糖尿病に分類されます。2型糖尿病は、生活習慣が要因となるため、改善にむけたライフスタイルの見直しが欠かせません。 また、運動不足や食べ過ぎ、過剰な喫煙や飲酒などの生活習慣は、糖尿病のリスクを高めます。まだ糖尿病と診断されていない境界型の方も、今のうちから生活習慣を見直してみてください。 監修:院長 坂本貞範
2020.03.28 -
- 糖尿病
糖尿病でよく聞くインスリンとは?治療方法について解説|内科専門医師が配信 「糖尿病は血液中の糖の割合(血糖値)が上昇する病気である」ということはご存知の方も多いと思います。また、「糖尿病はインスリンが関係する病気である」ということも耳にしたことがあるのではないでしょうか。 しかし「インスリンとはどのような物質なのか」や「インスリンはどのように糖尿病を引き起こすのか」といった質問にしっかりと答えられる人は、そう多くはないと思います。 インスリンの知識が身につくと糖尿病の発症メカニズムがわかり、予防や対策や治療の意義が理解できるようになります。ぜひこの機会に、インスリンと糖尿病の関係をしっかり身につけてください。ここではインスリン注射についても解説します。 糖尿病はインスリンが十分に働かない状態! 糖尿病は、胃の裏側にある膵臓(すい臓)という臓器から血液中に分泌されるインスリンが不足したり、インスリンが機能しないなどの原因で発症する病気です。 糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。 1型糖尿病は生まれつきインスリンが分泌されなかったり、少量しか分泌されない病気です。 2型糖尿病は生活習慣の悪化などによって膵臓が弱り、インスリンの分泌に支障が出たり、インスリンが働かなかったりする病気です。 次に、インスリンの働きについてみてみましょう。 インスリンとは インスリンはホルモンの一種です。ホルモンとは臓器の働きをコントロールする物質の総称です。膵臓には「ランゲルハンス島」という細胞群のなかの「β細胞」という細胞がインスリンをつくります。インスリンは血中の糖の量を下げることができる唯一の物質です。 血糖値とインスリンの関係とは 糖尿病は血中の糖の割合(血糖値)が異常に高くなる病気ですが、糖は細胞のエネルギー源なので必要不可欠なものです。「血中に糖があること」は正常な状態ですが、「血中の糖が多すぎる」と支障が出てしまうのです。 細胞はインスリンの力を借りることで血中から糖を取り込みます。したがってインスリンが足りていて、インスリンがしっかり働いていると血中の糖が消費されるので、血糖値は一定に保たれます。 インスリンが十分に働かない状態とは 糖尿病を引き起こすインスリンの異常には、インスリンが不足する場合とインスリンが働かない場合の2パターンがあります。 インスリン分泌不足 膵臓の機能が低下するとインスリンがつくられなくなります。この状態を「インスリン分泌不足」といい、血中のインスリン量が減って糖尿病を引き起こします。 インスリン抵抗性 膵臓がインスリンを正常につくっていても、運動不足や食べすぎなど生活習慣が乱れると、細胞のインスリンに対する反応が悪くなってしまいます。この状態で血糖値が上昇して糖尿病になることを「インスリン抵抗性による糖尿病」といいます。 インスリン治療の方法 糖尿病の治療には、インスリン治療が有効であるとされています。「インスリン治療」という場合、国内では注射を使ってインスリン製剤を投与することを意味します。経口薬とインスリン注射を使った治療法は「糖尿病の薬物療法」と表現します。 また、1型糖尿病の治療は基本的にインスリン治療(インスリン注射)を行います。経口薬の効果が出ず、その後インスリン注射に移行するのは、2型糖尿病の患者の方になります。 インスリン治療とは 注射薬を使うインスリン治療(以下、インスリン注射)は、体内でつくられるインスリンと同じインスリンを、注射器を使って体内に投与する治療法です。 この治療法の対象になるのは次のような状態の方です。 ・1型糖尿病の方 ・体内のインスリン分泌だけでは十分ではない方(2型含む、以下同) ・経口薬だけでは血糖のコントロールが難しい方 ・痩せ型で栄養状態が悪い方 ・糖尿病以外の病気の治療で、血糖値が上がる薬を飲んでいる方 1型糖尿病の方はインスリン注射を使った治療が必要になります。 2型糖尿病の方は、食事療法や適切な運動を行いながら最初は経口薬による治療を進めますが、状態や条件によってインスリン注射に移行します。 インスリン注射の仕方 インスリン注射は場合によって1日3食の毎食前に投与する必要がありますが、その都度医療機関を受診することは現実的ではありません。 そこで患者の方が自分で注射器を握り、ご自身の身体に注射針を刺す「自己注射」という手法が採用されます。 ただ自分で注射を打つといっても、インスリン注射の注射器は特殊な形状と機能を持っているので簡単に実施できます。例えば、インスリン注射の注射器には最初から薬剤(インスリン)が入っていますので、患者の方が自分で薬を容器から注射器に移す必要はありません。 また薬の投与量を調整できるダイヤルがあるので、それを設定すれば適量を投与できます。さらに注射針は極細かつ短いので、皮膚に刺してもほとんど痛みはありません。 インスリン注射を打つ場所は太ももや腹部などで、投与する時間とあわせ医師が指定します。医師の指示どおり投与しないとインスリンが効きすぎたり効かなかったりします。 インスリン注射の自己注射を開始する際は、事前に医師の指導のもと何度か練習しますので、小さな子供や高齢者でも問題なく打てるようになります。 インスリン注射の種類 インスリン注射は、薬の作用の仕方や効果の持続時間によって主に次の6種類に分かれています。 超速効型インスリン製剤 投与後10~20分で効果が出るので、食事の直前に投与することができます。患者の方は「食事とインスリン注射」をセットで行うため、食事時間が不規則になってしまった際もわずらわしさを軽減できます。 効果は3~5時間ほどの持続と短いので低血糖のリスクを下げることができます。超速効型インスリン製剤は毎食前に投与します。 速効型インスリン製剤 効果が出るまで30分~1時間ほどかかります。したがって食事の30分前に自己注射する必要があります。効果は5~8時間ほど持続します。速効型インスリン製剤も毎食前に投与します。 中間型インスリン製剤 効果が出るまで1~3時間かかります。効果の持続時間は18~24時間と長いので、1日1回、朝食前のみの投与で済む患者の方もいます。1日2回必要な場合もあります。 混合型インスリン製剤 超速効や速効型、中間型を混ぜ合わせたものです。効果の持続時間は中間型インスリン製剤と、ほぼ同じなので1日1回または1日2回打つことになります。 持効型溶解インスリン製剤 注射から効果までの時間は1~2時間で効果は1日中持続します。ほとんどの場合、1日1回投与するだけで済みます。 混合溶解インスリン製剤 超速効型と持効型溶解インスリン製剤を混ぜ合わせたものです。 医師は患者の方の状態やライフスタイルに応じてインスリン注射の種類を使いわけています。ライフスタイルのなかでは、食事のタイミングが重要視されます。仕事などで食事の時刻が定まらない場合は、注射のタイミングや量などを微調整する必要がありますので、医師と相談することになります。 インスリンに関するよくある質問 インスリン注射について患者の方が心配になりそうな内容とその回答を紹介します。 インスリン治療を始めると一生続く? 1型糖尿病の患者の方は、インスリン注射を継続する必要があります。しかし2型糖尿病の患者の方のなかには、一度インスリン注射を始めてもその後の経過次第で経口薬に戻せることがあります。 それは、インスリン注射によって膵臓が「休むこと」ができ、機能が回復することがあるためです。 インスリン治療を行うと太る? インスリン注射が体重増や肥満を引き起こすことはありません。ただし、インスリン注射を始めると血糖が順調に下がり空腹を感じやすくなるので、そのせいで過食をしてしまい太る患者の方がいます。 ほかにも低血糖の恐れや、ストレスから適切な量より多い食事が原因で太ることはあります。ですが、インスリン注射を始めても食事療法と運動療法を継続していれば体重を維持することは可能です。 インスリン注射は痛い? インスリン注射はほとんど痛くありません。それは極細で短い特殊な針を使っているからです。 注射する部位としては以下のようになっています。 ・おなか ・上腕部の外側 ・おしり ・太ももの外側 など インスリンに副作用はある? インスリン注射には低血糖という副作用があります。これはインスリンが効きすぎて血糖値が下がりすぎてしまう症状です。 低血糖は重症になると意識障害やけいれんを引き起こします。そのほかの症状には、冷や汗、動悸などがあります。しかし、低血糖を恐れて患者の方自身がインスリン注射を制限してしまうと、糖尿病の治療が滞ってしまいます。 患者の方は自己判断でインスリン注射を調整しないでください。 インスリン療法しているので食事療法や運動療法をしなくてもよい? インスリン注射を行っていても食事療法と運動療法は継続する必要があります。食事療法と運動療法はすべての糖尿病の患者の方とすべての糖尿病予備軍の方の治療のベースになります。 食事療法と運動療法を継続していないと、インスリン注射などそのほかの治療の効果が出にくくなってしまいます。 こちらも併せてご参照ください まとめ・糖尿病でよく聞くインスリンとは?治療方法について解説 インスリン注射は自己注射という特殊な治療法を必要とします。注射を打つことは医療行為なので、本来は医師や看護師しか行うことができません。 インスリン注射は、例外的に患者の方自身が注射針を打つことが許されているのです。したがって、本人による自己注射も、家族が本人の代わりにインスリン注射を打つ場合も、医師の指導管理が必要になります。(※) しかし、インスリン注射を必要以上に警戒する必要はありません。医師の指示内容は難しくありませんし、主治医とよく相談してインスリン治療を始めるようにしましょう。 ※参考「医事法制における自己注射に係る取扱いについて」 監修:院長 坂本貞範 糖尿病について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
2020.03.21 -
- 糖尿病
持効型インスリン治療とは|メリット・デメリットを解説!|内科専門医師が配信 糖尿病の治療法の1つに、インスリン製剤を自己注射する方法(以下、インスリン自己注射)があります。糖尿病の患者の方が自分で注射器を握ってインスリンを体内に投与します。 インスリン自己注射は患者の方の負担が大きいため、2型糖尿病の患者の方の場合、飲み薬(経口薬)の効果が出なくなってから移行します。ただし、医師によっては2型糖尿病であっても早めにインスリン自己注射をすすめることがあります。 また1型糖尿病の治療ではインスリン自己注射が必須になります。糖尿病の治療でインスリン自己注射が多用されるのは、血糖値のコントロールの精度が高まることが期待できるからです。 さらに、低血糖のリスクを抑えながら患者の方の負担を減らすことが期待できる「持効型溶解インスリン製剤」を使った「BOT(Basal Supported Oral Therapy)」という治療法が注目されています。 そのあたりについても本記事で詳しく解説します。 糖尿病治療にインスリンを使う理由 糖尿病は膵臓(すい臓)からインスリンが分泌されなくなったり、インスリンが機能しなくなったりすることで血糖値が高くなる病気です。血糖値が高くなると血管が壊れやすくなり、より重大な病気を引き起こします。 インスリン自己注射は、体外から注射によって直接体内にインスリンを投与する治療法です。 インスリン自己注射で使う薬剤にはいくつか種類があります。インスリンは効果が出るのが早い薬剤もありますし、効果がゆっくり出る薬剤もあります。医師は薬剤を使い分けることで、患者の方のライフスタイルに合わせて血糖値をコントロールします。 持効型溶解インスリンとはどのようなものか? インスリン自己注射で使われるインスリン製剤には、効果の出方の速さや効果の持続時間などによって、超速効型インスリン製剤や速効型インスリン製剤などの種類があります。持効型溶解インスリン製剤もそのうちの1つです。 持効型溶解インスリン製剤は「トレシーバ」「レベミル」「ランタス」といった商品名で販売されています。製薬メーカーによって商品名が異なります。 インスリン自己注射の目的は、基礎インスリンを補うためと追加インスリンを補うための2つあります。持効型溶解インスリン製剤は基礎インスリンを補う目的で使います。 「持効型」は効果が持続するという意味で、その名のとおり持効型溶解インスリン製剤の効果は24時間続きます。超速効型インスリン製剤は効果が3~5時間ほどしか持続しないので、持効型溶解インスリン製剤の効果の持続時間の長さが理解できると思います。 注射のタイミング 持効型溶解インスリン製剤は1日1回の自己注射で済みます。注射を打つタイミングは医師と相談して決めます。 どのような働き方をするか 持効型溶解インスリン製剤を自己注射で投与すると体内のインスリンが増えるので血糖値が下がります。インスリンは血中の糖が細胞に取り込まれるのを助けます。 効果が出るまでの時間 持効型溶解インスリン製剤は、血糖値を下げる効果が長く持続する代わりに効果が出始めるまで1~2時間ほどかかります。 ちなみに超速効型インスリン製剤は10~20分ほどで効果が現れます。 効果が持続する時 持効型溶解インスリン製剤はほぼ1日効果が持続します。 持効型溶解インスリンのメリット・デメリット 持効型溶解インスリン製剤を使うメリットとデメリットを紹介します。 メリット 持効型溶解インスリン製剤のメリットは次の4つがあります。 作用時間が長く、健康な人と変わらない生活を送ることができる 持続時間(作用時間)が長いので1日1回の自己注射で済みます。例えば、朝食前に自宅で自己注射すれば昼食前や夕食前に打つ必要がないので、いわゆる「普通の生活」に近い生活を送ることができます。 濃度のピークが少ないため夜間の低血糖を起こすリスクが低い 持効型溶解インスリン製剤は効果がゆっくり現れてゆっくり減っていくので、インスリンの血中濃度のピークが少ない、という特徴があります。 インスリン濃度が急激に上がって急激に下がると夜間の低血糖が懸念されますが、持効型溶解インスリン製剤はそのリスクが小さいといえます。 体重増加のリスクが低い 空腹は低血糖に差しかかるときに感じやすいです。持効型溶解インスリンを使うと血糖値濃度のピークが小さく一定に作用するので、低血糖に陥りづらく空腹を感じにくいので体重増加のリスクが低くなります。 1日1回だから打ち忘れが少ない 持効型溶解インスリン製剤は1日1回の自己注射で済むので、「打ち忘れ」のリスクを減らすことができます。 デメリット 持効型溶解インスリン製剤を使うデメリットは2つあります。 食後高血糖の改善効果は強くない 持効型溶解インスリン製剤は「基礎分泌」を補う薬で、食後に起きる急激な高血糖を改善する効果は強くありません。 食後の高血糖の改善には「追加分泌」を補う製剤が適しています。したがって患者の方の状態によっては持効型溶解インスリン製剤を使えないこともあります。 食事療法・運動療法がきちんとできていることが必要 どの薬を使うかに関わらず糖尿病の患者の方は食事療法と運動療法に取り組むことが求められます。 日本でも普及しているBOT 持効型溶解インスリン製剤の自己注射を使った治療法の1つにBOTがあります。これは自己注射が1回で済むので、働いている人や食事をする時刻が不規則になりがちな方に向いている治療法です。 インスリン治療は1日4回の自己注射が基本です。それと比べるとBOTは、1日1回の注射で済むので患者の方の負担が小さくなる可能性があります。 BOTとは BOTはいくつかあるインスリン治療のなかで比較的新しい方法の1つです。先ほど、インスリン自己注射をする目的は、基礎インスリンを補う目的と追加インスリンを補う目的の2つがあると紹介しました。 BOTは、自己注射は1日1回の持効型溶解インスリン製剤だけにして、食後の血糖値上昇対策には飲み薬を使います。 BOT以外の治療法の1つに「Basal-Bolus療法」があります。これは持効型溶解インスリン製剤を1日1回打って基礎インスリンを補い、さらに超速効型インスリン製剤を毎食前、1日3回打って追加インスリンを補う治療法です。つまり1日4回の自己注射が必要になります。 ほかの治療法より注射の回数が少なくて済むBOTはインスリン治療が初めての方にも始めやすい方法です。 日本でもBOTを行う人が増え始めている BOTでは自己注射の回数が1回なので、朝食前に行えば翌朝まで自己注射する必要はありません。手軽ですし、打ち忘れのリスクを減らすことができるので患者の方に喜ばれています。新しい治療法として積極的にBOTを患者の方にすすめる医師もいます。 インスリン自己注射には、インスリンの効果が出すぎて血糖が下がりすぎてしまい、低血糖を引き起こすリスクがあります。しかし、持効型のインスリンは効果が一定で長時間続くため、BOTは低血糖リスクが小さい治療法であるといわれています。 まとめ/持効型インスリン治療とは|メリット・デメリットを解説 インスリン自己注射は患者の方に負担のかかる治療法ですが、持効型溶解インスリン製剤を使ったBOTは、その負担を小さくできる可能性があります。 1型糖尿病の方にはインスリン治療が必要不可欠です。しかし、2型糖尿病で経口薬治療中の患者の方のなかには「インスリン自己注射は最終手段」と考え、自己注射の使用を遅らせたいと考える人もいます。 一方で自己注射は血糖値のコントロールがしやすくなるなどのメリットもあります。糖尿病治療は長期化すること多いため、医師とよく相談して効果と負担のバランスが取れた治療法を選ぶようにしてください。 監修:院長 坂本貞範 ▼糖尿病について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。 糖尿病ってどんな病気?
2020.03.15 -
- 糖尿病
- 再生治療
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糖尿病でインスリン注射をやめることはできるのか? 糖尿病治療にはさまざまな方法がありますが、薬物療法の一種に「インスリン注射」があります。 「一生、治らない病気」と呼ばれる糖尿病の患者さんは、このインスリン注射をやめることはできないのでしょうか? 今回は、糖尿病のインスリン注射をやめる方法について解説します。 こちらも併せてご参照ください 糖尿病患者がインスリン注射をやめるには? 糖尿病患者さんが必要とする治療法は、大きく分けて以下の3種類です。 ・食事療法(食事制限により糖質やエネルギー摂取量をコントロールする) ・運動療法(運動により血糖の消費やインスリンの働きをコントロールする) ・薬物療法(薬物により血糖値の状態をコントロールする) このうち「インスリン注射」は、「薬物療法」に属します。 一般的な糖尿病治療は、「食事療法」と「運動療法」をベースに、それでも血糖値をコントロールできない場合に薬物療法が併用されることが多いです。 つまり、薬物療法を併用していた患者さんでも、治療の結果により血糖値の状態が改善されれば薬物療法を中断し、食事療法と運動療法で血糖値をコントロールするスタイルに移行できる可能性があります。 糖尿病患者さんがインスリン注射をやめるためには、薬物療法に頼らなくても良いと診断されるレベルまで治療を進めなければなりません。 誰もが薬物療法をやめることができるわけではない 糖尿病患者さんのすべてが薬物療法をやめることができるわけではありません。 例えば、糖尿病治療には「運動療法」が重要なポイントの1つとなりますが、年齢や身体機能の関係で治療に十分な運動をできない場合もあります。また、合併症などの関係で糖尿病が重症化し、治療がなかなか奏功しないケースもあるでしょう。 このように、患者さんによっては食事療法と運動療法だけで十分に血糖値をコントロールできるレベルまで症状が改善しない場合もあり、その場合は飲み薬やインスリン注射を利用しなければならないのです。 インスリン注射をやめる治療法「再生医療」の可能性 糖尿病の治療法の1つとして、「再生医療」に注目が集まっています。再生医療は、壊れた組織(細胞)を修復する機能を持った「幹細胞」の働きを利用し、体の自己再生機能を促進することでさまざまな病気・怪我の治療に役立つ可能性が注目されています。 糖尿病もその1つであり、糖尿病に深く関係する「すい臓」の機能を修復することでインスリンの働きを改善し、インスリン注射をやめるのに十分なレベルまで症状を改善できる可能性があるのです。 まとめ・糖尿病でインスリン注射をやめることはできるのか? 再生医療の成果は個人差があるので一概には言えませんが、糖尿病の症状が改善することで治療方針を大幅に変化させられる可能性を秘めていることは間違いありません。 インスリン注射をやめるためには症状の改善が必要不可欠です。再生医療による治療を検討してみてはいかがでしょうか。 糖尿病について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
2020.03.05 -
- 糖尿病
1型糖尿病の食事で注意すべきことは 1型糖尿病の食事では、栄養バランスの取れた食事を規則正しく取ることを意識していれば特別な制限はありません。ただし、普段の生活のなかで注意しておきたいポイントもあるので、それら概要を紹介していきます。 1型糖尿病とは 1型糖尿病とは、すい臓でインスリンを分泌する「β細胞」が破壊されてしまうことで起こる病気です。β細胞が壊れると、インスリンの分泌が弱まったり、ほとんど出なくなったりします。 体内でインスリンが不足すると、血糖値が高い状態が続いてしまうため、高血糖を原因とする腎臓や眼の病気をはじめとした合併症を発症するおそれがあるのです。 世界中の糖尿病患者のうち、1型糖尿病の患者は約5%といわれています。発症するのは若年層が中心ですが、幅広い年齢で発症する可能性がある病気です。 日本国内には、生活習慣などの要因で発症する2型糖尿病の患者の方が多くいますが、1型糖尿病は2型糖尿病とは原因がまったく異なるほか、治療法も大きく異なるのが特徴です。 1型糖尿病の原因 1型糖尿病は、すい臓にあるβ細胞が破壊されることに起因して起こる病気ですが、β細胞が破壊されてしまう原因について詳しいことはまだ明らかになっていません。 現在考えられているのは、免疫反応に異常が生じ、自分の細胞を攻撃してしまうことです。これを自己免疫といい、血液検査で確認できます。 自己免疫が起こっているかどうかの検査(自己抗体の検査)は1型糖尿病の診断で用いられています。 1型糖尿病の種類 1型糖尿病にかかるとβ細胞が破壊されます。一般的にβ細胞の破壊は進行性であることから、患者の方は病気の進行とともに体内でインスリンをほとんど出せない状態になってしまいます。 1型糖尿病の治療でインスリン注射が必要となるのはそのためです。病気が進行すると、インスリン製剤によってインスリンを補い続ける「インスリン依存状態」となります。 1型糖尿病の進行のスピードは、劇症・急性発症・緩徐進行の3種類に分けられます。1型糖尿病の種類について、それぞれ見ていきましょう。 劇症1型糖尿病 劇症1型糖尿病は、1型糖尿病のなかでもっとも急激に発症するものです。7日前後でインスリン依存状態になることから、すみやかにインスリンを補う必要があります。 早期にインスリンを補うことができなければ重症化するおそれもあるため注意が必要です。また、急激にインスリンが不足すると「糖尿病ケトアシドーシス」が生じるおそれもあります。 これは、インスリン不足から血糖上昇が起こり、極度の脱水状態に陥ってしまう症状であり、悪化すると昏睡状態に陥る危険性があります。 劇症1型糖尿病の早期対処のためにも、医療機関での診断をできるだけ早めに受けることが大切です。 急性発症1型糖尿病 急性発症1型糖尿病はもっとも発症頻度が多く、1型糖尿病の典型的なものです。この場合、糖尿病の症状が出てから数カ月でインスリン依存状態となってしまいます。 急性発症1型糖尿病は医療機関の血液検査によって発見されることが多くあります。急性発症1型糖尿病では、体内に残っていたインスリンが一時的に効果を発揮することで高血糖の症状が改善する患者の方もいます。 これを「ハネムーン期」と呼びます。しかし、その後、インスリン不足の状態になるためインスリン製剤にて治療を行います。 緩徐進行1型糖尿病 緩徐進行1型糖尿病は時間をかけて少しずつインスリンの分泌が弱まっていくのが特徴です。 インスリン分泌が弱まるまでには短い方で半年、長い方であれば数年かかります。初期段階であれば、インスリン製剤による治療を行うことなく血糖値を抑えることも可能です。 緩徐進行1型糖尿病は、血液検査によって自己免疫が起こっている(自己抗体がある)ことから発見されることがあります。 こちらのタイプでは、すい臓への負担を避けるためにインスリンを補う治療が行われます。 1型糖尿病の治療方法 1型糖尿病の治療では、血糖コントロールを続けることで高血糖を防ぎ、糖尿病の進行や合併症を予防することが大切です。インスリンを補い適切な治療を行えば、健康的な日常生活を送ることができるため、医師の指示にしたがった治療方法を継続してきましょう。 注射によるインスリン治療 基本的には注射によってインスリンを補う、インスリン治療が行われます。インスリンがほとんど出なくなってしまっているため、インスリン製剤によって補う必要があるのです。 インスリン注射の量は、患者の方の状態に合わせて決められています。インスリンの量が多すぎると低血糖を引き起こすおそれがあるため、低血糖の症状についても理解し対処できるようにしておくことが大切です。 食事制限はない 糖尿病の食事制限については型によって違いがあります。2型糖尿病では食事療法は欠かせません。そのため、人によっては食事制限を受けることもあります。 一方、1型糖尿病は、そもそもすい臓からインスリンがほとんど分泌されていない状態ですので、インスリンの補充は注射に頼ることになります。 そのため、1型糖尿病の場合には食事制限が不要となります。1型・2型ともに「食べてはいけないもの」はなく、どのような食材であっても口にして問題ありません。 ただし、「制限」がないだけで、まったくの自由というわけではありません。暴飲暴食や不規則な食事をしていては、弱っているすい臓に過剰な負担をかける可能性があります。 そのため、栄養バランスを考慮しつつ、1日3食の規則正しい食事を心がけることが大切です。 また、糖質の管理も大切となります。食事による糖質コントロールの結果、1型糖尿病患者の方もインスリン注射の量を減らすことができ、注射量を減らすことで血糖値コントロールをしやすくなるメリットがあります。 特に1型糖尿病は血糖値が乱高下しがちですので、糖質量を管理することは、その予防においても効果的です。 血糖コントロールをする「カーボカウント」 糖尿病における食事療法のひとつにカーボカウントがあります。これは、一回の食事における炭水化物(=カーボハイドレート)の量を計算し、血糖値をコントロールする方法です。 炭水化物量が把握できれば、急激な血糖値の上昇を抑えられ、インスリン量も調整できるようになります。 糖質制限と聞くと、一切主食を取らないなど極端なものを思い浮かべるかもしれませんが、カーボカウントを用いて食事を管理していけば食事の自由度は広がります。 また、肥満の予防にもつながります。 1型糖尿病の治療の注意点 1型糖尿病は長期にわたる継続的な治療が必要です。そのため、治療中にさまざまなトラブルやリスクに見舞われることがあります。特に注意しておきたいのが、インスリン過剰による低血糖や低血糖による失神、シックデイ中の血糖コントロールです。 低血糖が起こってしまった場合の対処法 低血糖が疑われる場合はブドウ糖など血糖値を早く上げてくれる食品を取りましょう。また、食事があまり取れなかったときや長い運動を控えているような場合は、あらかじめ食べ慣れている食品を少しだけ捕食しておきます。 なお、低血糖により意識がなくなってしまう場合に備え、ブドウ糖や砂糖などをカバンに入れておきましょう。 低血糖が起こった場合でも少しは意識があるなら、周囲の人がブドウ糖などを飲ませることですぐに意識は戻ります。なお、甘いジュースなどでも代用は可能です。 近しい人たちには上記のことをあらかじめ伝えておきましょう。 シックデイで食事ができないときのインスリン注射は? 糖尿病治療中に風邪をひいてしまったり、発熱や下痢、腹痛などに見舞われ食欲がなくなってしまう局面をシックデイと呼びます。ここで注意したいのは、「インスリン注射を自己判断で中断しない」ということです。 1型糖尿病の場合は体内でインスリンがほとんど分泌されていないため、それを補うためにインスリン注射が必要です。そのため、食事ができていなくても基礎分泌のインスリン注射は投与量を変更してはいけません。 ただし、食事ができない状況では血糖値などにも影響が出てきます。この調整は食事量や血糖値に合わせて、追加分泌の即効型インスリンの量で整えるようにしてください。 まとめ/1型糖尿病の食事で注意すべきことは 1型糖尿病の場合では2型糖尿病と比べて厳しい食事制限などはありません。ただし、普段の生活のなかでは、規則正しく食事を取り、糖質量を把握することなどが求められます。 なお、糖尿病は自覚症状としてなかなか気づけない反面、早めの発見が大切です。心当たりの有無にかかわらず、定期的に医療機関での検査を受けるようにしましょう。 監修:院長 坂本貞範 糖尿病について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
2020.03.02 -
- 糖尿病
糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ 糖尿病治療の方法の1つに運動療法があります。体を動かす習慣を生活に取り入れることで筋肉の活動力が高まると、さまざまなメリットを得られるようになります。 こちらでは糖尿病治療の運動療法について詳しく紹介していきます。糖尿病の症状改善、健康維持のためにぜひ参考にしてください。 糖尿病治療における運動療法とは 糖尿病治療では、食事療法や薬物療法と合わせて運動療法を取り入れることが望ましいと考えられています。 運動療法は糖尿病治療という目的のほかにも、さまざまなメリットが期待されます。 食事療法、薬物療法と並ぶ糖尿病治療の有力な手段 糖尿病の治療には食事療法や薬物療法に加え、日々の生活に運動を取り入れる運動療法も有効な手段として推奨されています。その理由は、2型糖尿病の原因の1つに運動不足が挙げられるからです。 運動をしてエネルギーを消費すると肥満の解消につながります。また、運動により筋肉の活動量が高まるとインスリンの働きが促進されるようになります。 1型糖尿病の場合はインスリンの作用機能の回復までは望めないものの、運動によって筋力が強化されたりストレスが解消されたりと、治療に取り入れるべき好ましい効果が期待できます。 運動療法を行うメリット 運動療法は糖尿病治療に有効であるだけでなく、健康維持にも幅広く役立つメリットがあります。以下は運動療法で期待できる効果の一例です。食事療法や薬物療法と組み合わせて取り入れましょう。 <運動療法により期待される効果> ○がん予防 ○動脈硬化予防 ○骨粗鬆症予防 ○血圧を下げる ○快眠 ○健康的な体重・体型維持 ○若々しさを保てる 糖尿病を改善する運動の効果 糖尿病治療において運動にはさまざまな効果が期待されます。どのような効果があるか知ることで、運動療法へのモチベーションもアップするでしょう。 ここでは糖尿病改善につながる運動の効果を見ていきます。 内臓脂肪をへらす 2型糖尿病患者には、偏った食生活や運動不足などが続いた結果、肥満になってしまった方が多く見られます。また、太っていないように見えても、内臓脂肪が蓄積した「かくれ肥満」の可能性があります。 内臓脂肪が蓄積された状態はインスリンに対する反応が低下する「インスリン抵抗性」を生じさせるため、血糖値を下げるためのインスリンも多く必要になってしまうのです。 脂肪を減らすことができればインスリンの効きがよくなり、血糖値の上昇を抑えることにもつながるのです。皮下脂肪・内臓脂肪を減らすためにも、運動は欠かせない要素です。 食後の血糖上昇を抑制する 食後は血糖値が急激に上昇しやすくなるタイミングです。そのような血糖値の上昇を抑えるためにも、運動はとても効果的です。 運動にてブドウ糖や脂肪酸が消費されることで、血糖値の低下につながります。 運動におすすめのタイミングは食事から1時間ほどたった後です。食事で増えた血中のブドウ糖や脂肪酸の利用を促し、血糖値の急激な上昇を防ぐ効果が期待されます。 筋肉を増やす 血糖値の上昇は、ブドウ糖の合成によって誕生したグリコーゲン(貯蔵糖)の分解によっても起こります。 肝臓や筋肉に貯めこまれているグリコーゲンは、分解されてブドウ糖となり、血糖値を高めるために使われます。血糖値が低下している場合には問題ないのですが、糖尿病の場合はこれ以上の高血糖になるのを抑制しなければなりません。 ここで活躍するのがインスリンです。インスリンはブドウ糖の合成を促進し、グリコーゲンの分解を抑制してくれます。そのほか、脂肪の合成・分解にもインスリンがかかわっています。インスリンが適切に作用していれば、血中のブドウ糖や脂肪酸が増えすぎることはありません。 一方、インスリンの働きが弱まってしまうと血中のブドウ糖が多くなりすぎてしまいます。この状態が高血糖です。高血糖が長期間続くと糖尿病を引き起こします。 インスリンの作用を適正に戻すためには筋肉量を増やすことが効果的です。運動により筋肉量が増えると血糖値低下につながります。 筋肉が増えてエネルギー消費量がアップすると、消費されるブドウ糖も増え、血中のブドウ糖が減っていくからです。 運動療法の具体的な方法は 運動療法は主に「有酸素運動」と「筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)」に大別されます。これらの運動をバランス良く行うことで、健康維持に役立てていきましょう。 ご自身のライフスタイルに合わせ、楽しみながら続けられる運動から始めてみてください。 有酸素運動とは 有酸素運動とは、体内で酸素を使うことで糖や脂肪を燃焼させる運動のことです。日常生活で誰もが行っている歩行も、早歩きをすることで有酸素運動になります。 有酸素運動を効果的に行うためには、1回あたり20~40分の運動を1週間に3回以上続けましょう。 <主な有酸素運動> ○ジョギング ○ウォーキング ○スイミング ○エアロビクス ○サイクリング ○ラジオ体操 ○テニス 筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とは 筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とは、筋肉に繰り返し抵抗をかけて鍛えることで、筋力を高める運動のことです。 運動によって基礎代謝が高まることで、エネルギーを消費しやすく肥満になりにくい体づくりにつながります。日常生活で行う階段の上り下りなどもトレーニングになります。 <主な筋力トレーニング> ○ダンベル運動 ○腹筋 ○腕立て伏せ ○スクワット 日常でできる運動療法はウォーキングがおすすめ もともと運動が苦手な方は、運動療法と聞いて少し抵抗を感じてしまうかもしれません。そうであれば、日常生活に自然と取り入れられるウォーキングから始めてみるのがおすすめです。 ウォーキングで足腰を鍛え、年齢を重ねても運動を続けられる体づくりを目指しましょう。 効果的なウォーキングのコツ ウォーキングの効果を高めるためには、正しい姿勢で歩くことが大切です。また、ウォーキングの際は通常の歩行よりもややスピードのある早歩きを心がけましょう。 歩きながら軽く息がはずむ程度の早歩きで、効果的な運動療法となります。 <ウォーキングフォームのポイント> ○肘を90°に曲げて、腕を大きく振る ※きちんと肘を曲げて体を動かすと、背中の筋肉を鍛えることにつながります。 ○背筋を伸ばす ○歩幅は広めに ○前を見て歩く ○肩の力は抜く○足はかかとから着地させる 運動時間の目安 糖尿病の予防や糖尿病の進行を抑えるためのウォーキングは、1週間に150分以上の運動時間を目安にしましょう。ただし、運動不足による体力の問題がある方は、まずは60分以上を目標に定めウォーキングを取り入れてみてください。 運動はできるだけ毎日続けて行うことが大切です。習慣として楽しく体を動かしていきましょう。 小まめなウォーキングも合計すれば十分効果が得られる 日頃から仕事や家事などで忙しく、30分以上のまとまった時間をなかなか取れない方は、小まめに歩くことから始めてみましょう。たとえば、通勤やちょっとした外出時に早歩きをすれば、10分間程度のウォーキングを行えます。買い物や犬の散歩でも同様です。 意識して階段を使うことや、自転車通勤への切り替えも運動療法につながります。 運動療法で気をつけるポイント 運動療法は糖尿病治療においてさまざまなメリットがありますが、注意すべきポイントもあります。誤った方法で運動を続けたり、運動の内容が適していなかったりすると、かえって健康を損ねることにもつながりかねません。 運動療法を実践するうえで気をつけておくべきことを紹介していきます。 気を付けるポイントについて詳しくはこちら 主治医に相談しましょう 場合によっては運動が禁止・制限されるケースもあるため、あらかじめ主治医に相談しておきましょう。下記は、運動療法を控えるべきケースの一例です。 <運動を禁止・制限したほうがいいケース> ○高血糖値 ○脱水時 ○腎臓の病気が進行しているとき ○重い心臓病 ○骨や関節の病気 ○糖尿病壊疽 食事療法と運動療法は2つをセット 運動療法を行う際は必ず食事療法と組み合わせましょう。運動を始めると食欲が増加することがありますが、食べる量が増えてしまうと糖尿病治療に影響が出るおそれがあります。 食事のコントロールも運動同様に不可欠であることを理解し、2つの治療法をセットで行うことが大切です。 運動をする前には準備体操 運動前には準備体操を欠かさずに行いましょう。急激に体に負担をかけるとケガにつながる可能性があるため、体を動かすことに慣れていない方は特に注意してください。 また、悪天候や猛暑・厳寒など極端な気候のときは屋外での運動を控えるなど、無理のないようにしましょう。 自分に合った運動を行う 運動を続けた結果、体への負担や違和感を覚えるのであれば一度やり方を見直してみてください。自分の病状・体調・体力に合わせて、無理なく体を動かすことが大切です。 自分が興味を持て、自然と楽しめるやり方を選ぶと良いでしょう。 自分の体に合った靴で運動する 糖尿病治療では足腰の健康維持が重要となります。運動療法では自分の足に合った靴を履いて、足腰を傷めることがないように注意しましょう。運動を行った前後で足に違和感や変化がないのを確認し、気になるところがあればすぐに主治医に相談してください。 運動の前後に十分な水分を取りましょう 運動をして汗をかくと体から水分が失われます。小まめに水分補給をして脱水を防ぎましょう。 特に夏場は気温が高く汗をかきやすくなるため、運動の前後や必要なタイミングで水分を取ることが大切です。 運動療法を長く続けるコツ これまでに運動習慣のなかった方には、運動療法を長続きさせるための工夫が必要となります。 たとえ一度続かなくなってしまっても、ほかの種目に挑戦してみたり、誰かを誘ってみたりと、諦めずにチャレンジすることが大切です。 ここでは運動療法を長く続けるためのコツを紹介していきます。 運動前後の血糖値や尿糖を測り自分に合った運動を見つける 運動の前後に血糖値や尿糖を測定して運動の効果を確かめてみましょう。効果を実感することで、体調管理のモチベーションがより高まるほか、自分に適した運動方法もわかってきます。 <測定値による対処法> ○運動前 測定の結果、血糖値が高すぎる場合は運動を制限してください。空腹時血糖値が250mg/dLを目安とし、それ以上であれば運動を控えましょう。 ○運動中 1型糖尿病の方は過剰な運動による低血糖に注意するとともに、ブドウ糖を持ち歩きすみやかに対処できるよう備えておきましょう。 ○運動後 血糖値が低い状態で運動をすると低血糖になる場合があります。特に空腹時の早朝や食前の運動の後に起きやすい症状なので、運動のタイミングを朝食後に切り替えてみるとよいでしょう。 日常的なものから徐々に運動量を増やしていく 運動療法がなかなか続かない場合は、諦めずに日常生活のなかでできる運動から始め、少しずつ運動量を増やしていきましょう。 ちょっとした移動や家事のなかにも、体を動かすきっかけはたくさんあるものです。以下の一例を参考に、気軽に取り組んでみてください。 <気軽に取り入れられる運動> ○掃除 ○犬の散歩 ○エスカレーターやエレベーターを使わない ○通勤時の早歩き ○テレビを見ながら体を動かす ○買い物 体調に合わせて無理をせず目標達成を求めすぎない 急激に体に負担をかけることを防ぐためにも、運動療法では目標のステップアップは慎重に進めていきましょう。 関節痛や風邪など体調に不安を感じるときには休みを取るなど、無理をしないことが運動療法を長続きさせるコツです。 運動が楽しくなってきたとしても、やりすぎに注意することも大切です。 運動に対する正しい知識を持つ 運動にはメリットだけでなくデメリットもあります。負荷をかけすぎると体を痛めるおそれもあることを理解しておきましょう。 自分に合った運動方法を選び、適切な運動量や強度の範囲を守り、あくまで健康維持のために運動を続けられるよう、正しい知識を身に着けておきましょう。 街探検やお店探しなど趣味と運動を一緒にできるようにする ウォーキングのコースを変えるだけでも新しい気分で楽しめるようになるものです。同じコースに飽きてしまったときは、あえて別の道を選ぶなど工夫してみましょう。 街探検のような気持ちで知らないお店を探してみるのも良いでしょう。運動以外の目的をウォーキングに取り入れることも長く続けるポイントの1つです。 まとめ・糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ 運動療法は食事療法や薬物療法と合わせて行うことで糖尿病改善の効果が期待されます。 有酸素運動と筋力トレーニングをバランスよく行うことを意識しながら、まずは無理なく始められる運動を日常生活に取り入れていきましょう。 運動療法は健康維持のためにさまざまなメリットがある反面、注意すべきポイントもあります。主治医の指導のもと、体や症状に合わせた適切な運動を心がけてください。 監修:院長 坂本貞範 糖尿病について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
2020.03.01 -
- 糖尿病
- 再生治療
糖尿病は治る時代になった?最新の糖尿病治療について 従来、糖尿病という病気は「治らない病気」「一生かけてつきあっていく病気」というレッテルの貼られた病気でした。 しかし、医療技術の進歩により、ついに糖尿病が治る時代を迎えるに至ったのです。 今回は、治る時代となった糖尿病の治療法について解説します。 今や糖尿病は治る時代になった そもそも、糖尿病は「治らない病気」と言われていました。 糖尿病であると診断された患者さんは、「食事療法」「運動療法」といった生活スタイルに関係する治療法を中心に、必要に応じて「薬物療法」を組み合わせて血糖値をコントロールする生活を一生にわたって続ける必要があったのです。 これらの治療法は患者さんの血糖値をコントロールすることには寄与しますが、糖尿病の根本的な原因を治療するには至りませんでした。 しかし、新しい治療法である「再生医療」は、糖尿病を根本的に治療できる可能性を秘めた治療法として注目されているのです。 再生医療とは? 「再生医療」とは、「幹細胞」と呼ばれる細胞を利用した治療法です。 「幹細胞」とは、さまざまな細胞に変化することができる細胞であり、体の中の細胞の状態に応じて損傷・不足している細胞を補う働きをしています。 そして、再生医療は幹細胞のその働きに注目し、患者さん自身では修復することが難しい体の部位(内臓や皮膚、骨など)を再生することを目的とした治療法なのです。 再生医療は、これまで「治すことの難しい病気」を治療できる可能性や、「完治までに時間がかかる病気や怪我」を短期間で治せる可能性を秘めています。 こちらも併せてご参照ください 糖尿病を再生医療で治療する 再生医療の仕組みについて理解できたところで、糖尿病の原因についてもう少し詳しく解説しておきます。 糖尿病とは、簡単に言うと「血糖値をコントロールできていない状態」のことであり、体内で血糖値を下げる働きをするホルモンは「インスリン」です。 このインスリンを分泌しているのが「すい臓」であり、厳密には「β細胞」という細胞がすい臓内でインスリンの分泌を行うのですが、糖尿病ではこのβ細胞が壊れてしまいます。 そして、従来の治療法ではβ細胞を修復することは難しく、低下した血糖値コントロール機能を生活習慣の改善や薬物治療で補うのが従来の糖尿病の治療方針でした。 一方、再生医療では、弱ったすい臓で幹細胞が働くことによって機能の改善を図る効果が期待できます。つまり、糖尿病の根本的な原因を改善できる可能性があるのです。 まとめ 糖尿病はもはや治らない病気ではなく治る時代が到来しており、糖尿病治療に悩んでいる人にとって一筋の光明であることは間違いありません。 再生医療の成果は個人差もありますので確実ではありませんが、完治には至らずとも症状の改善につながる可能性は十分に秘めています。 興味を持たれた方は、再生医療による治療も選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。
2020.02.20 -
- 糖尿病
糖尿病治療に使われるGLP-1受容体作動薬について解説|内科専門医師が配信 糖尿病の患者の方のなかにも、GLP-1受容体作動薬という薬はご存じない方もいると思います。インスリン製剤を自己注射する治療法はよく知られていますが、自己注射で投与するGLP-1受容体作動薬は最近開発されたばかりの薬だからです。 この記事ではGLP-1受容体作動薬の特徴や副作用、投与方法などを解説します。 GLP-1受容体作動薬はどんな薬? 「GLP-1受容体作動薬」について理解しやすくするために、「GLP-1」と「GLP-1受容体」、「GLP-1受容体作動」にわけて説明します。まずGLP-1ですが、これは体内に存在するホルモンの名称です。GLP-1が分泌されると膵臓が刺激され、膵臓からインスリンが分泌されます。 インスリンは血中内の糖の割合(血糖値)を減らす唯一のホルモンです。「GLP-1は血糖値を下げるホルモン」と解説されることもありますが、正しくは「GLP-1は血糖値を下げるインスリンを分泌させるホルモン」となります。 次にGLP-1受容体ですが、これはGLP-1と結合するタンパク質のことです。GLP-1は小腸から分泌されますが、GLP-1受容体は膵臓内にあります。両者の結合は膵臓内で起きます。GLP-1は、GLP-1受容体と結合することでインスリンの分泌をうながすのです GLP-1受容体作動薬は体外から注射などによって「GLP-1に似た構造の成分」を体内に投与し、膵臓のなかでGLP-1と同じ動きをさせる薬です。 GLP-1受容体作動薬の効果・特徴 GLP-1受容体作動薬は、空腹時など血糖値が低いときは作用しない特徴を持っています。つまり、GLP-1受容体作動薬は食後の血糖値が高くなったときだけ働くので、低血糖を起こしにくいのです。 インスリン製剤の場合、インスリンを直接投与するので、投与量が多すぎると血糖値が下がりすぎて低血糖を引き起こすことがあります。GLP-1受容体作動薬はそのリスクが低い薬といえます。 また、GLP-1受容体作動薬を投与すると食欲が減ることがあるので体重減少が期待できます。 代表的な副作用 GLP-1受容体作動薬の副作用には、吐き気、下痢、便秘、急性膵炎などがあります。ほかにも糖尿病の治療薬であるSU薬と併用すると低血糖を起こす可能性が高くなります。 SU薬の正式名称はスルホニル尿素薬といい、この薬もインスリンの分泌を増やす効果があります。 使用前に知っておきたい注意点 GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病の患者の方向けの薬です。1型糖尿病の場合、そもそもインスリン分泌が不足しているので、GLP-1受容体作動薬による改善が期待できません。 一方、GLP-1受容体作動薬には併用薬に関する問題があります。それは、GLP-1受容体作動薬と併用可能な薬には保険適用できるものとできないものがあることです。 これは医療機関に対する注意点ではありますが、患者の方にも関わることですので記載しておきます。また、インスリン製剤の自己注射を使った治療を受けている患者の方がインスリン製剤をやめてGLP-1受容体作動薬に切り替えると、糖尿病ケトアシドーシスを発症することがあります。 糖尿病ケトアシドーシスは糖尿病の代謝失調の1つで、高血糖によって悪心、嘔吐、腹痛などを引き起こします。 GLP-1受容体作動薬の投与方法 GLP-1受容体作動薬の投与には注射器を使います。使用する注射器には次の3タイプがあります。 「ペン型注入器」はペンのような形状をしていて、最初から薬剤が注射器本体に注入されています。患者の方が自分で薬剤を注射器に移す必要はありません。注射針は使うたびに取り替えます。 「オートインジェクター」はペン型注入器と似ていますが、1回使い捨てである点がペン型と異なります。1回使い捨てなので患者の方が針を取り替える必要はありません。 「シリンジ」は、一般の人がイメージする注射器のことで、シリンジの先に針を取りつけ、その針を薬剤の入った容器に突き刺し薬剤をシリンジ本体に吸い込みます。 作動薬を患者の方が自分で投与する場合、ペン型やオートインジェクター型を使用することが多いです。 ただし、お持ちの注入器が故障したときのことを踏まえてシリンジ型も持っておくことをおすすめします。 投与頻度について GLP-1受容体作動薬には、1日1~2回投与するタイプと週1回投与するだけのタイプの2種類あります。 まとめ・糖尿病治療に使われるGLP-1受容体作動薬について解説 GLP-1受容体作動薬はインスリン製剤とは異なる働きをして血糖値の抑制を目指します。低血糖リスクを抑えるメリットはありますが、副作用の心配もあります。またその他の薬との組み合わせが難しい特徴があります。 したがって医師は、患者の方と相談したり注意深く経過観察してからGLP-1受容体作動薬を使うかどうか決めることになります。 監修:院長 坂本貞範
2020.02.18 -
- 糖尿病
糖尿病で血糖値500以上は入院の可能性|昏睡状態を避けるために 糖尿病とは、血糖値が高い状態が続くことです。いまや糖尿病は「国民病」と呼ばれるほどポピュラーな病気ですが、場合によっては入院となるケースもあります。この記事では血糖値がどの程度だと入院と判断されるのか、極度の高血糖による合併症の症状や予防法について解説します。 血糖値だけで入院の判断はされない 血糖値は食生活の乱れや肥満、運動量の低下、ストレス、年齢などによって高くなることがあります。血糖値が高いからといってすぐに入院するわけではありません。以下で詳しく見ていきます。 血糖値が高く持病や合併症がある場合は検査入院 検査結果によって、医師から「専門医の診察が必要」と判断されることがあります。専門医の診察が必要と判断されるケースには以下のようなものがあります。 ・血糖コントロールが不可の状態が3か月以上続く ・インスリン療養が必要なインスリン依存状態 ・糖尿病ケトアシドーシスなどの急性合併症がある場合 特に、動脈硬化などの合併症や視神経や腎臓に持病がある場合は「検査入院が必要」と判断されることが多いです。一方、糖尿病ケトアシドーシスや意識障害など高血糖による急性合併症がある場合は、インスリン治療などの治療入院になります。 血糖値をコントロールするための教育入院 糖尿病で入院するケースとしては、検査入院や治療入院のほかに教育入院もあります。教育入院とは、14日程度入院し、血糖値を下げるための食事療法や運動療法、薬物療法を行い、知識や手法を習得する目的で行うものです。 糖尿病教育入院によって血糖値を下げることはできますが、下がった血糖値を維持するためには自宅に戻ってからも食事療法や運動療法などを継続して行う必要があります。 血糖値500mg/dl以上は、意識障害を招く可能性があり、即入院の可能性 「糖尿病の疑いがある」と判断される血糖値は空腹時血糖値126mg/dl以上(随時血糖値または75g経口ブドウ糖負荷試験2時間血糖値が200mg/dl以上)になります。血糖値が500mg/dl以上になると、極度の脱水症状を起こし、意識障害につながることがあります。 糖尿病は発症原因によって大きく1型糖尿病と2型糖尿病に大別されます。1型糖尿病はほとんどインスリンを分泌することができない(インスリンの絶対的不足)ため高血糖を引き起こします。 一方、2型糖尿病はインスリン抵抗性によってインスリンが分泌されても作用しにくくなることやインスリンの分泌量が減ること(インスリンの相対的不足)によって高血糖になるといわれています。 インスリンの相対的不足の状態と暴飲暴食や風邪などの感染症、ストレスなどが重なると血糖値が500mg/dl以上になることもあります。 意識障害の兆候としては、のどが異常に乾くことや多尿による脱水症状などがあります。この脱水症状によって体のなかの電解質のバランスが崩れ、下痢や腹痛、全身の倦怠感を引き起こします。 症状が進行してしまうと昏睡状態に陥るため、早急に入院する必要があります。 異常な高血糖で意識障害や昏睡を招く急性合併症 血糖値が異常に高くなると急性合併症を発症し、意識障害や昏睡を引き起こすことがあります。意識障害や昏睡を招く急性合併症とはどのようなものか見ていきます。 糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡の症状 糖尿病性ケトアシドーシスは高血糖の症状や嘔吐、悪心、脱水症状、低血圧などの症状を起こします。子供の場合はこれらの症状に加えて腹痛を起こすこともあります。 さらに、糖尿病性ケトアシドーシスは血液中にケトン体が増えるため、呼気に含まれるアセトンによって果物のような香りの息を吐くことがあります。糖尿病性ケトアシドーシスの症状が進行すると意識障害や昏睡状態に陥り、最悪の場合は死にいたる可能性もあります。 1型糖尿病の場合に糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡が起きる原因 糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡は1型糖尿病患者に多く見られます。 1型糖尿病患者では、インスリン投与を中断したことや、感染症などの生理的ストレスによって、インスリンをいつもと同じように投与してもインスリンが代謝されてしまい高血糖になることが原因で発症します。 生理的ストレスになりうるものには、ほかにも心筋梗塞や外傷、すい炎、脳卒中などがあります。インスリンの作用不足があると血液中のブドウ糖をエネルギーとして使うことができません。そのため、筋肉などのたんぱく質や脂肪細胞を分解してエネルギーを得ることになります。 このとき脂肪分解で産生されたケトン体が体に溜まり、血液が酸性に傾くことでケトアシドーシスを起こします。 2型糖尿病の場合に糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡が起きる原因 糖尿病性ケトアシドーシスは1型糖尿病患者に多く見られ、2型糖尿病患者が発症する頻度は多くありません。しかし、感染症などの異常な生理的ストレスが重なると2型糖尿病でも糖尿病性ケトアシドーシスを発症することがあります。 さらに、2型糖尿病患者は清涼飲料水を飲みすぎることでが糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こすこともあります。これをペットボトル症候群(清涼飲料水アシドーシス)といいます。 高浸透圧性高血糖性昏睡の症状 高浸透圧性高血糖になると、極度の脱水症状や著しい高血糖が起こり、以下のような症状を引き起こします。 ・意識障害 ・皮膚や粘膜の乾燥 ・けいれん ・血圧の低下 ・脈が速くなる ・尿の量が減る 高浸透圧性高血糖は以前は高血糖性高浸透圧性昏睡や非ケトン性高浸透圧昏睡、非ケトン性高浸透圧症候群などと呼ばれていましたが、現在は高浸透圧性高血糖と呼ばれることが多くなっています。 2型糖尿病や高齢者に多く起きる原因 高浸透圧性高血糖は主に2型糖尿病患者が手術や脳血管障害、感染症、高カロリー輸液、ステロイド薬の投与などでインスリンの作用不足が起こり、高血糖になることで発症します。高浸透圧性高血糖は2型糖尿病の合併症だけでなく、高齢者にも多く見られる症状です。 高齢者が発症しやすい理由には以下のようなものがあります。 ・飲む水の量が減る ・身体機能の低下 高齢になると、のどの渇きを感じる口渇中枢の機能が低下します。そのため、水分が必要な状態にも関わらず、のどの渇きを感じにくくなり、飲む水の量が減ってしまうのです。 高血糖の急性合併症の治療と予防 高血糖による急性合併症を発症した場合は以下の方法で治療を行うことになります。 ・十分な輸液や電解質を補充して脱水症状を緩和させる ・インスリンを適切に投与する ・発症した原因を排除する 糖尿病性ケトアシドーシスも高浸透圧性高血糖も感染症が引き金で起こることがあります。そのため、感染症を発症しないことが意識障害や昏睡の予防につながります。 特に糖尿病性ケトアシドーシスは極度のインスリン不足で起こることがあります。糖尿病治療中は風邪などで食欲がないという場合であってもスープなど食べやすいものを摂り、飲み薬やインスリンを中断しないことが大切です。 さらに、体調が悪いときは体力を消耗しないためにも安静にして抵抗力を温存しておくことも重要です。ただし、嘔吐や下痢が止まらなかったり、250mg/dl以上の高血糖が続く場合や食事が摂れず薬も投与できないとき、高熱が続くといった場合はすぐに医師の診察を受けましょう。 まとめ・糖尿病|血糖値500以上は入院の可能性|昏睡状態を避けるために 糖尿病で入院が必要と判断される基準や急性合併症により意識障害を招いた場合の対処法について説明しました。 極度の高血糖になると、昏睡状態に陥り、最悪の場合死にいたることもあります。日ごろから教育入院などを利用して血糖コントロールに努め、インスリンの投与をおこたらないことが大切です。もし昏睡や意識障害の兆候が現れたらすぐに医師の診察を受けましょう。 監修:院長 坂本貞範
2019.07.07