- 脳卒中
ウェルニッケ失語とは?症状・原因・リハビリ・回復の可能性を解説

ウェルニッケ失語とは、左の側頭葉後部にあるウェルニッケ野が障害されることで、言葉の理解が難しくなる失語症です。
話すこと自体は流暢で、声の大きさやイントネーションにも問題がないため、一見すると会話が成り立っているように見えます。
しかし、聞いた言葉の意味を処理する働きが低下しているため、相手の話が入ってこず、自分の発話も内容がまとまらない状態になります。
本記事では、ウェルニッケ失語の症状や原因、ブローカ失語との違い、診断とリハビリ、回復の見通しまでを解説します。
ご家族が診断を受けて対応に悩んでいる方や、失語症を基礎から理解したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ウェルニッケ失語とは?言葉の理解が障害される失語症
ウェルニッケ失語は、言葉を「理解する」機能が強く障害される失語症です。
そもそも失語症とは、大脳の損傷によって、いったん身につけた言語機能が障害される状態を指します。
※参照:独立行政法人国立病院機構 鳥取医療センター「失語症」
聴く・話す・読む・書くという言語の4つの機能はそれぞれ脳の異なる部位が担っており、どこが損傷されたかによって症状の現れ方が変わります。
ウェルニッケ失語で障害されるのは、聞いた言葉の意味を読み解くウェルニッケ野(左側頭葉後部)です。
そのため、耳は聞こえているのに内容が理解できず、母語であっても知らない外国語を聞いているような状態になります。
一方で発話をつくる機能は保たれているため、言葉数は多く滑らかに話せるのに、意味が伝わりにくいという特徴的な組み合わせが生じます。
ウェルニッケ失語の主な症状
ウェルニッケ失語では、理解面と表出面の両方に特徴的な症状が現れます。
ここでは、代表的な3つの症状を解説します。
相手の話を理解しにくい
最も中心となる症状が、聞いた言葉の意味を理解しにくくなることです。
単語レベルは伝わっても文章になると理解が難しくなる、長い説明になるほどついていけなくなる、といった形で現れます。
「コップを取ってください」と頼んでも別の物を手渡す、質問と噛み合わない返答をするといった場面が目立ちます。
また、文字を読んで理解する力も同時に低下することが多く、書かれたメモで伝えれば通じるとは限りません。
流暢だが意味の通らない話し方になる
発話のなめらかさは保たれ、むしろ話す量が多くなる傾向があります。
ただし内容がまとまらず、たくさん話しているのに相手に伝わる情報が少ない状態になりやすく、これは「空虚な発話」と呼ばれます。
ここで押さえておきたいのが、患者様ご自身は症状を自覚しにくいという点です。
発話する機能は働いているため「きちんと話せている」と感じており、伝わっていないことに気づきにくいのです。
周囲が何度も聞き返すと、なぜ伝わらないのかがわからずいら立ちや混乱につながることもあります。
言い間違い(錯語)や造語が増える
言葉の選択にも誤りが生じ、これを錯語(さくご)と呼びます。
「時計」を「靴」と言うように別の単語に置き換わる語性錯語、「えんぴつ」を「えんとつ」と言うように音が入れ替わる音韻性錯語があります。
さらに、実在しない言葉を作り出す新造語が混ざることもあり、症状が重い場合は発話全体が意味をなさなくなることもあります。
加えて、聞いた言葉をそのまま繰り返す復唱も苦手になるのが、ウェルニッケ失語の特徴の一つです。
ウェルニッケ失語の原因
ウェルニッケ失語の主な原因は、脳卒中をはじめとする脳の損傷です。
- 脳梗塞
- 脳出血・くも膜下出血
- 頭部外傷
- 脳腫瘍
- 脳炎などの感染症
とくに多いのが、左の中大脳動脈が枝分かれした先の領域が詰まる脳梗塞です。
ウェルニッケ野はこの血管の支配領域に含まれるため、血流が途絶えると言語理解の機能が急速に失われます。
脳梗塞では、詰まった血管を再開通させる治療が発症からの時間で適応が決まるため、対応の早さがその後の症状を大きく左右します。
ろれつが回らない、言っていることが噛み合わない、片側の手足が動かしにくいといった変化が突然現れた場合は、ためらわず119番通報してください。
ブローカ失語との違い
失語症の代表的なタイプであるブローカ失語とは、障害される機能がほぼ正反対です。
| 項目 | ウェルニッケ失語/ブローカ失語 |
|---|---|
| 損傷部位 | ・左側頭葉後部(ウェルニッケ野) ・左前頭葉後下部(ブローカ野) |
| 言葉の理解 | ・大きく障害される ・比較的保たれる |
| 話し方 | ・流暢だが内容が伝わりにくい ・非流暢で言葉が出にくい |
| 復唱 | ・困難 ・困難 |
| 症状の自覚 | ・気づきにくい ・自覚しやすく、もどかしさを感じやすい |
この違いは、周囲の関わり方にも影響します。
ブローカ失語では、言いたいことは理解できているため、選択肢を示したりジェスチャーを促したりする支援が有効です。
一方のウェルニッケ失語では、まず伝わる方法を工夫する必要があり、短い文でゆっくり話す、実物や写真を見せる、身振りを添えるといった対応が助けになります。
診断方法
診断は、症状の評価と画像検査を組み合わせて行われます。
- 神経学的診察:麻痺や感覚障害など、他の神経症状の有無を確認する
- 失語症検査:標準失語症検査(SLTA)などで聴く・話す・読む・書く力を評価する
- MRI・CT検査:損傷の部位と範囲、原因疾患を特定する
失語症検査では、絵の名前を答える、指示どおりに物を指す、文章を復唱するといった課題を通じて、どの機能がどの程度保たれているかを細かく調べます。
この評価がリハビリの計画を立てる土台になります。
また、ウェルニッケ失語は会話が噛み合わないことから認知症と間違われやすい点にも注意が必要です。
失語症は言語の機能の問題であり、記憶や判断力そのものが失われているわけではないため、正確な鑑別が欠かせません。
治療・リハビリテーション
治療は、原因となる疾患への対応と、言語聴覚士(ST)によるリハビリを並行して進めるのが基本です。
脳卒中では、機能障害に対して言語聴覚療法などの適応を判断しながらリハビリテーションを行うことが勧められています。
※参照:日本神経治療学会「脳卒中治療ガイドライン Ⅶ.リハビリテーション」
言語リハビリでは、単語の理解から始めて短い文、長い文へと段階的に難易度を上げ、聴く力と話す力の両面を訓練します。
ご家族が日常で意識したいポイントは以下のとおりです。
- 短い文でゆっくり、区切りながら話す
- 実物・写真・身振りなど言葉以外の手がかりを添える
- 一度に複数の用件を伝えない
- テレビを消すなど、会話に集中できる環境を整える
- 間違いをその都度訂正せず、伝わった部分を返す
誤りを繰り返し指摘されると意欲の低下につながるため、正確さより「やりとりが成立した」という手応えを重ねることが大切です。
回復の可能性と予後
回復の程度には個人差があり、原因疾患の種類、損傷の範囲、年齢、リハビリを始めた時期などが影響します。
一般に、発症から数か月間は自然回復とリハビリの効果が重なりやすい時期とされ、この期間に集中的な訓練を受けられるかが重要になります。
ただし、その後の時期に改善が止まるわけではなく、長期にわたって少しずつ変化が見られる場合もあります。
完全に元どおりの会話に戻ることが難しい場合でも、伝える手段を増やすことで生活の質は高められます。
絵カードやコミュニケーションノート、身振りの活用など、残された力を生かす方法を言語聴覚士と一緒に探していきましょう。
損なわれた組織・臓器の機能改善を目指す再生医療という選択肢
ウェルニッケ失語の標準治療は、原因疾患に対する治療と言語リハビリテーションです。
再生医療は、現時点で失語症そのものへの有効性が確立された治療ではありません。
一方で、脳梗塞をはじめとする脳卒中後の神経機能の回復を目的とした幹細胞治療の研究・実施は進められています。
再生医療は、患者様ご自身の脂肪から採取・培養した幹細胞を投与し、損傷した組織の修復や機能の維持を目指す治療法です。
リハビリを続けても後遺症が残っている場合の補完的な選択肢として関心を持たれる方もいますが、適応は個々の状態によって異なります。
まずは主治医の診断と治療方針を確認したうえで、再生医療に精通した医師に相談するという順序が大切です。
詳しくは脳卒中・脳梗塞の再生医療についてをご覧ください。
まとめ|ウェルニッケ失語は早期治療とリハビリが重要
ウェルニッケ失語は、流暢に話せる一方で言葉の理解が障害されるため、周囲から状態が伝わりにくい失語症です。
ご本人が症状を自覚しにくいという特徴もあり、認知症と誤解されることも少なくありません。
原因の多くは脳卒中であり、突然会話が噛み合わなくなった場合は迷わず救急要請を行いましょう。
発症後は原因疾患の治療と並行して、言語聴覚士によるリハビリを早期から継続することが回復につながります。
一方で、リハビリを続けても後遺症が残る場合には、神経機能の回復を目指す再生医療に関心を持たれる患者様やご家族もいます。
脳卒中に対する再生医療の詳しい内容は、リペアセルクリニックの公式サイトでもご紹介していますので、再発予防や後遺症の改善に取り組みたい方は、ぜひ参考にしてください。
監修者
圓尾 知之
Tomoyuki Maruo
医師
資格・所属学会
日本脳神経外科学会 所属
脳神経外科の最先端治療と研究成果を活かし、脳卒中から1日でも早い回復と後遺症の軽減を目指し、患者様の日常生活の質を高められるよう全力を尽くしてまいります。



























