石灰沈着性腱板炎とは|原因や症状とは?石灰化の治療法について医師が解説
公開日: 2020.05.15更新日: 2025.06.02
夜間、眠っているときに生じる肩の強い痛みに悩んでいる方は、石灰沈着性腱板炎を発症しているかもしれません。
石灰沈着性腱板炎とは、肩の筋肉である腱板に石灰が蓄積され、炎症を引き起こし痛みが生じる疾患です。
この記事では、石灰沈着性腱板炎の概要や原因、症状などについて解説します。
石灰沈着性腱板炎の新たな治療法として注目されている再生医療の紹介もしているので、参考にしてください。
また、当院リペアセルクリニックの公式LINEでは、再生医療の治療法や症例に関する情報を公開しているので、合わせてご覧ください。
目次
石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)とは
石灰沈着性腱板炎とは、肩の腱板に石灰(カルシウム)が蓄積し、炎症を引き起こすことで強い痛みや肩の可動域制限が起こる疾患です。
腱板は、肩甲骨と上腕骨をつなぐ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)と呼ばれる4つの筋肉で、肩の動きをサポートし安定させるのが主な役割です。
石灰沈着性腱板炎は突然強い痛みが現れ、夜間に痛みが強くなって睡眠が妨げられることがあります。
また、痛みがあることで肩を動かすことが難しくなり、腕を上げたり物を持つといった日常の動作にも支障をきたします。
放置すると症状が慢性化して長引くこともあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
石灰沈着性腱板炎の原因
石灰沈着性腱板炎は、以下の4つが主な原因と考えられています。
石灰沈着性腱板炎による痛みは、腱板に沈着したリン酸カルシウム結晶が炎症を引き起こすことによって生じます。
リン酸カルシウムが腱板に沈着する理由や詳しいメカニズムは、完全に解明されていません。
肩の継続的な負担
石灰沈着性腱板炎の原因の一つに、肩の継続的な負担が挙げられます。
肩に負担がかかる動作は、以下の通りです。
- 猫背や前傾姿勢などの不良姿勢
- 建設現場や引越し業者など重量物を持つ
- 野球やテニスなどの肩を酷使するスポーツ
上記のような肩を酷使する環境が続くと、肩の腱板に微細な損傷が起こりやすくなります。
損傷を修復する際に石灰が沈着して炎症を引き起こすことが石灰沈着性腱板炎の発症につながると考えられています。
加齢による修復機能の低下
石灰沈着性腱板炎の原因の一つとして、加齢による修復機能の低下が考えられます。
特に40~50代の方に多くみられます。
加齢とともに、肩まわりの血流が悪くなったり、組織を修復する機能が低下したりすると、腱板に石灰が沈着しやすくなると考えられています。
石灰沈着性腱板炎は、年齢とともに誰でも発症する可能性があるので、肩に痛みや違和感を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。
女性ホルモンの低下
石灰沈着性腱板炎の原因に、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌低下があります。
エストロゲンの主な働きは、以下の通りです。
- 女性らしい体型をつくる
- 損傷した筋肉や腱を修復する
- 腱の柔軟性を保つ
- 血中のカルシウム濃度を一定に保つ
更年期や閉経によってエストロゲンの分泌量が減少すると、肩の修復機能が低下し、石灰沈着が起こりやすくなると考えられています。
また、エストロゲンとカルシウムの関係も重要です。
骨は古い骨を壊して新しい骨を作る働きがあり、エストロゲンは古い骨を壊す働きを抑え、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぎます。
そのため、エストロゲンの分泌が減少すると、体内のカルシウムバランスが崩れ、石灰沈着性腱板炎を発症しやすくなる可能性があります。
日本人女性が閉経する平均年齢は、50.5歳※です。
※出典:厚生労働省働く女性の心とからだの応援サイト「更年期」
50代以降の女性は、肩の痛みや違和感を感じたら、年齢やホルモンの影響も視野に入れて、早めの対応を心がけましょう。
カルシウムを中心とした栄養素の不足
カルシウムなどの栄養素が不足すると、石灰沈着性腱板炎の発症リスクが高まる可能性があります。
血液中のカルシウムが不足すると、体は骨からカルシウムを溶かして補おうとしますが、何らかのきっかけにより腱板にカルシウムが沈着する場合があると考えられています。
コンビニ食やファーストフード中心の食生活が続いている方は、栄養バランスを意識し、カルシウムを積極的に摂取するのが大切です。
カルシウムを多く含む食品は、以下の通りです。
食品 | 主な例 |
---|---|
乳製品 | 牛乳、チーズ、ヨーグルトなど |
大豆製品 | 豆腐、納豆など |
小魚 | ししゃも、さくらえびなど |
野菜 | 小松菜、切り干し大根など |
とくに牛乳は、他の食品に比べてカルシウムの吸収率が高く、効率よく摂取できる乳製品です。
また、カルシウムの吸収を助ける働きを持つビタミンDが豊富なイワシやサンマ、しいたけなどの食品も一緒に食べると効果的です。
石灰沈着性腱板炎を予防するにも、カルシウムやビタミンDなどの栄養素を積極的に摂りましょう。
石灰沈着性腱板炎の症状
石灰沈着性腱板炎の症状は、以下の3つのタイプに分けられます。
タイプ | 痛みが続く期間 | 主な症状 |
---|---|---|
急性型 | 1週間から4週間程度 |
|
亜急性型 | 1カ月から半年程度 | 急性型のような症状が出たり、症状が治まったりするのを繰り返す |
慢性型 | 6カ月以上 |
|
石灰沈着性腱板炎は、急性型・慢性型問わず、日常生活に支障をきたす場合があります。
急性型は、突然強い痛みが生じることが多く、睡眠や仕事、家事がままならないケースも少なくありません。
一方、慢性型では、腕を上げたときの痛みや引っかかるような違和感により、洗髪・衣服の着脱・洗濯など、日常の動作が困難になることもあります。
石灰沈着性腱板炎はどうやって治す?主な治療法
石灰沈着性腱板炎には、以下の3つの治療法があります。
一般的に保存療法が用いられますが、沈着した石灰が時間の経過に伴い、硬く石膏状になった際は手術が検討されます。
また、修復することがほとんどないとされている腱板の回復を促す再生医療についても紹介するので、参考にしてください。
保存療法
石灰沈着性腱板炎の治療法に、保存療法が挙げられます。
保存療法の主な内容は、以下の通りです。
治療方法 | 内容 |
---|---|
安静 | アームスリングや三角巾などの固定器具を使って肩を固定する |
薬物療法 | 炎症や痛みを緩和するために、鎮痛剤やステロイド薬などを使用する |
リハビリ | 肩関節の動きを回復させるため、ストレッチや筋肉トレーニングなどを行う |
注射療法 | 痛みの緩和や可動域を改善するために、ステロイドやヒアルロン酸を注射する |
吸引療法 | 石灰がミルク状で強い痛みがある場合、注射針を用いて石灰を吸引する |
とくに、石灰沈着性腱板炎を発症して1~4週間程度の急性期は、固定器具で肩を安静にして、炎症や痛みを抑えるための薬を服用するのが一般的です。
また、蓄積した石灰がミルク状かつ強い痛みを伴う場合は、吸引療法により注射針で石灰を取り除いて症状の緩和を図ります。
保存療法によって、蓄積した石灰が自然に吸収され、軽快するケースもあります。
手術療法
石灰沈着性腱板炎の石灰を直接取り除く治療法として、手術療法があります。
手術療法は、保存療法による改善がみられない場合や、日常生活に大きな支障をきたしているときに選択される治療法です。
主に用いられるのは関節鏡手術で、肩に小さな傷を作って小さなカメラや専用の手術器具を挿入し、腱板に沈着した石灰を取り除きます。
石灰が除去できた場合、術後1週間ほどで日常生活に復帰可能なケースが多いです。
しかし、石灰沈着性腱板炎は再発する可能性もあるため、手術後も適切なリハビリを行い、肩の状態を継続的にケアしましょう。
石灰沈着性腱板炎の手術については、以下の記事で詳しくまとめていますので、参考にしてください。
再生医療
石灰沈着性腱板炎の新たな治療法として、再生医療が挙げられます。
再生医療とは、患者さま自身の細胞を活用して、損傷した組織の修復を促す治療法です。
治療には点滴や注射などを使用するので入院や手術を必要とせず、身体への負担が少ないことが大きな特徴です。
再生医療について興味がある方は、当院「リペアセルクリニック」へお気軽にご相談ください。
肩の痛みは⼿術しなくても治療できる時代です。
石灰沈着性腱板炎についてよくある質問
石灰沈着性腱板炎についてよくある質問は、以下の2つです。
石灰沈着性腱板炎に関する疑問をまとめたので、参考にしてください。
石灰沈着性腱板炎の激痛はいつまで続く?
石灰沈着性腱板炎の激痛は、急性型であれば発症後1~4週間続くのが一般的です。
しかし、症状のタイプによっては1年以上かかる場合があります。
石灰沈着性腱板炎の症状は、次の3タイプに分類されます。
タイプ | 症状が続く期間 |
---|---|
急性型 | 突然の強い痛みが1~4週間続く |
亜急性型 | 中等度の症状が1~6カ月続く |
慢性型 | 運動時の痛みや引っかかるような違和感などが6カ月以上続く |
石灰沈着性腱板炎は、自然に回復する場合もありますが、放置すると痛みが慢性的になったり、石灰が大きくなり症状が悪化したりする恐れがあります。
肩の激痛が続く場合は、レントゲン検査やCT検査で石灰沈着性腱板炎の診断ができる整形外科を受診しましょう。
石灰沈着性腱板炎の予防法は?
石灰沈着性腱板炎の予防法を、以下にまとめました。
- 肩の使いすぎを避ける
- 肩まわりの筋力トレーニングやストレッチをする
- 栄養バランスの取れた食事を心がける
石灰沈着性腱板炎の予防には、肩まわりの筋力トレーニングやストレッチなどが有効です。
また、バランスの良い食事も石灰沈着性腱板炎の予防に役立ちます。
カルシウム不足は石灰沈着の原因となる可能性があるので、以下の栄養素を積極的に摂取しましょう。
栄養素 | 主な働き | 食品 |
---|---|---|
カルシウム |
石灰の沈着を防ぐ |
|
|
カルシウムの吸収を助ける |
|
|
炎症を抑える効果が期待できる |
|
外食やコンビニ食が多い方は、食事内容を見直してみましょう。
石灰沈着性腱板炎が疑われる場合は早期に医療機関を受診しよう
石灰沈着性腱板炎とは、肩の腱板に石灰がたまって炎症を起こし、強い痛みを引き起こす疾患です。
症状はタイプによって異なりますが、突然の激しい痛みや夜間の痛みがある場合は、石灰沈着性腱板炎の可能性があります。
自然に治ることもありますが、放置すると症状が悪化したり、慢性化したりする恐れがあるため、早めに整形外科を受診しましょう。
治療法には、保存療法や手術療法のほか、近年では再生医療も選択肢の一つとして注目されています。
再生医療に関心のある方は、お気軽に当院までご相談ください。

監修者
坂本 貞範
Sadanori Sakamoto
医療法人美喜有会 理事長
「できなくなったことを、再びできるように。」
人生100年時代、皆様がより楽しく毎日を過ごせることの
お手伝いができれば幸甚の至りでございます。
略歴
1997年3月関西医科大学 医学部卒
1997年4月医師免許取得
1997年4月大阪市立大学(現大阪公立大学)医学部附属病院 勤務
1998年5月大阪社会医療センター附属病院 勤務
1998年9月大阪府立中河内救命救急センター 勤務
1999年2月国立大阪南病院 勤務
2000年3月野上病院 勤務
2003年3月大野記念病院 勤務
2005年5月さかもとクリニック 開設
2006年12月医療法人美喜有会設立 理事長就任
2019年9月リペアセルクリニック大阪院 開設
2021年5月リペアセルクリニック東京院 開設
2023年12月リペアセルクリニック札幌院 開設