アルコール性肝硬変は治るのか?回復の可能性と治療法を医師が解説
公開日: 2020.02.18更新日: 2025.06.02
日常的にアルコールを摂取している方にとって、アルコール性肝硬変のリスクは他人事ではありません。
肝硬変は肝機能が低下するほか、さらに悪化すると肝性脳症などの合併症を引き起こす可能性も高まります。
しかし「アルコール性肝硬変は改善できるのか?」「完治は難しいと聞くけど、どうすれば進行を止められるのか?」
と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、アルコール性肝硬変の完治の可能性や、合併症の対処法について解説します。
末期症状や合併症についての詳しい解説もしていますのでご覧ください。
目次
【結論】アルコール性肝硬変の完治こそ難しいが、進行の抑制は可能
アルコール性肝硬変まで進行してしまうと、元の健康な肝臓に戻る(完治)ケースは極めて難しいです。
※参照:全国健康保険協会
ただし、病状の悪化を抑えつつ、ある程度の肝機能を維持しながら日常生活を送ることは可能です。
アルコール性肝硬変の進行を抑制するためには、禁酒が重要です。アルコール依存症になっている場合は、専門医に相談し、早期に治療を開始しましょう。
また、併せて生活習慣の改善も大切です。脂質や塩分を抑え、タンパク質豊富な食事を心がけてください。
肝硬変になる前の脂肪肝の場合は、禁酒や生活習慣の改善が期待できます。
肝臓における生活習慣の見直し方法などについては、以下の記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
アルコール性肝硬変に至る進行ステップ
アルコール性肝硬変は、突然発症する病気ではありません。
長期間の飲酒を続けることで肝臓は徐々にダメージを受け、以下のように段階を経て進行していきますので、各ステージで適切な対応を取ることが重症化を防ぐ鍵となります。
アルコール性脂肪肝 |
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アルコール性肝炎 |
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アルコール性肝硬変 |
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初期のアルコール性肝炎は、目立った症状がないのが特徴です。
禁酒・節酒を行わずアルコールの摂取を続けると、アルコール性肝炎や肝硬変を発症する可能性が高まります。
アルコール性肝炎の中でも、重症になると多臓器不全や意識障害を伴う場合があり、劇症肝炎と呼ばれます。
また、多量の飲酒によってアルコール性肝障害が進行すると、肝がんを発症するリスクも高まります。
※参照:国立がん研究センター「肝がんの原因・症状について」
アルコール性肝硬変の末期症状と合併症の対処法
アルコール性肝硬変が重症化すると、以下のようなさまざまな症状や合併症を引き起こします。
腹水 |
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肝性脳症 |
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食道動脈瘤 |
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それぞれの合併症の対処法について詳しく紹介します。
腹水
腹水の対処法は、主に3つあります。
- 食事療法
- 利尿剤
- 腹水穿刺
腹水の発生・悪化を防ぐためには、食塩摂取量の制限が基本です。
塩分は体内に水分を保持する性質があることで過剰摂取すると腹水の悪化につながるため、塩分は1日に5~7g※にしましょう。
※参照:日本消化器病学会・日本肝臓学会「肝硬変診療ガイドライン 2020(改訂第 3 版)」2020年発行
また、腹水を体外へ排出するために、利尿剤(尿量を増やす薬)が処方されることがあり、体内に余分な水分が蓄積するのを防ぎます。
腹水が大量にたまり、腹部膨満や呼吸困難、食欲不振などの症状が強く現れる場合には、腹水穿刺(ふくすいせんし)という処置が行われます。
このように腹水は単なる症状ではなく、肝硬変の機能が低下した段階に入っているサインです。
進行を防ぐには断酒・栄養管理や、内科的・外科的治療などを組み合わせて全体的に病態のコントロールをすること必要です。
肝性脳症
肝性脳症とは、肝機能の低下により体内の有害物質(特にアンモニア)が解毒されずに脳へ到達し、意識障害や神経精神症状を引き起こす合併症です。
治療の基本は、主に以下の通りです。
- 誘因の除去
- 栄養療法
- 薬物療法
肝性脳症は、以下のような特定の誘因をきっかけに急激に悪化することが多いため、まずはそれらを的確に見つけ出し、排除することが最優先です。
- 便秘
- タンパク質の過剰摂取
- 消化管出血
- 感染症
- 脱水・電解質異常
- 利尿薬の過剰投与
※参照:J-Stage「日本内科学会雑誌第111巻第1号」
かつてはタンパク質制限が推奨されていましたが、現在は過度な制限は予後を悪化させるとされ、適正なタンパク質摂取の維持が重要とされています。
また薬物療法では腸内アンモニアの生成・吸収を抑えることを目的とした治療が中心になります。
肝性脳症は肝硬変が進行しているサインであり、放置すると昏睡や死亡に至ることもある重大な状態です。
しかし、誘因の早期除去・適切な栄養と薬物管理により、再発予防が期待できます。
ただし自己判断での食事制限はリスクも大きいため、医療機関と連携しながら治療を継続しましょう。
食道静脈瘤
食道静脈瘤は、肝硬変によって肝臓内の血流が悪くなり、門脈圧(門脈内の血圧)が上昇することで、食道の静脈が異常に膨らんだ状態です。
破裂すると大量吐血や消化管出血を引き起こし、命の危険が伴う深刻な状態になります。
破裂を未然に防ぐ、あるいは破裂後の止血を行うために、主に以下の2つの内視鏡的治療が用いられます。
- 食道静脈瘤硬化療法(EIS)
- 内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
食道静脈瘤硬化療法(EIS)は、内視鏡を使って食道静脈瘤に硬化剤(血管を固める薬)を注入し、静脈瘤を閉塞させる方法です。
瘤そのものに直接作用するため、再発リスクが比較的低いとされていますが、処置の際の合併症や身体への負担がやや大きいという側面もあります。
一方で、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)は内視鏡で静脈瘤を確認し、ゴムバンドで結紮(縛る)することで血流を遮断し、壊死・脱落させることで瘤を除去する治療法です。
患者の病態や静脈瘤の状態に応じて治療方法が異なるため、専門医と相談しながら治療方針を決定します。
アルコール性肝硬変の初期症状と早期発見のポイント
アルコール性肝硬変の初期症状と早期発見のポイントは、以下の通りです。
検査を欠かさない、自覚症状を見逃さない2点が重要です。
初期症状|倦怠感や食欲不振など
肝硬変の初期症状として、以下のようなものがあります。
- 慢性的な倦怠感
- 食欲不振
突然の食欲低下や慢性的な倦怠感といった症状が続く場合、肝炎や肝硬変の可能性が考えられます。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、自覚症状が現れにくく、気づいたときには病気が進行しているケースも少なくありません。
しかし、肝硬変へと進行する前の肝炎の段階で異変に気づき、早期に受診・治療を開始すれば、回復の可能性が期待できます。
気になる症状がある場合は、自己判断せず、早めに医療機関を受診しましょう。
肝機能検査(AST・ALT・γ-GTPなど)での早期発見
肝臓の異常は自覚症状が出にくいため、血液検査による早期発見が重要です。
AST(GOT)・ALT(GPT)・γ-GTPといった酵素の数値は、肝機能の状態を把握する基本的な指標です。
AST |
・肝細胞に含まれる酵素で、肝臓にダメージがあると血液中に漏れ出し、数値が上昇します。
・ALTは肝臓に特化しているため、肝炎などの診断に役立ちます。 |
ALT |
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γ-GTP | ・胆道や解毒機能に関わる酵素で、数値が高いと肝臓や胆道に何らかの異常がある可能性がある |
ASTやALTという酵素の数値を測る検査です。幹細胞が破壊されると血液中に控訴が漏れ出し、ASTやALTの数値が高くなります。
γ-GTPは胆道から分泌される酵素で、肝臓の解毒作用に深く関連しています。過度な飲酒や肝硬変、肝臓がんや胆石、胆管がんなどが原因で数値が高くなる可能性があります。
また、服用している薬の副作用によっても数値が上がるケースがあるので、医師に相談して薬の量を減らすなどの対策が必要です。
早期発見のための自己チェック
早期発見のため、普段からご自身の体調に気を配るようにしましょう。
肝硬変や肝炎のチェックポイントをご紹介します。以下の特徴に当てはまっている場合、肝炎などの可能性があります。
- 疲労感
- 倦怠感
- 食欲不振
- 吐き気
- むくみやすい
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状がない場合も多いです。人によっては疲労感や食欲不振などの症状が現れます。
もし原因不明の疲労感や吐き気がある場合は、医師に相談し適切な治療を受けましょう。
アルコール性肝硬変の治療
アルコール性肝硬変の治療法は、主に5つあります。
- 断酒
- 薬物療法
- 食事療法
- 肝移植
- 再生医療
アルコール性肝硬変の治療では、断酒が重要です。肝硬変の進行抑制はもちろん、肝機能の回復も期待できます。
薬物療法では、ビタミン剤やアミノ酸製剤が処方されます。肝臓保護や症状の緩和が目的です。薬物療法は完全な回復を目的とした治療法ではありません。
食事療法では脂肪分の少ない食事が推奨されます。ビタミンやミネラルを積極的にとりましょう。
肝臓の機能が著しく低下している場合、肝移植が検討されます。
再生医療は、低下した肝機能を改善できる可能性があります。肝硬変以外にも、脂肪肝においては血流促進による疲れやすさの改善などに寄与する可能性があるとされています。
肝臓疾患のお悩みに対する新しい治療法があります。
【まとめ】アルコール性肝硬変になっても諦めず症状の緩和を目指して治療に臨もう
アルコール性肝炎は、完治は困難ですが進行の抑制は可能です。
断酒や食生活の見直し、運動習慣をつけると肝機能の改善が期待できます。
アルコール性肝硬変は、合併症を引き起こすリスクも高まるため、普段の節酒やバランスの良い食事が大切です。
肝硬変を予防するため、普段から体調に気を配り、検査を受けるようにしましょう。
アルコール性肝硬変の治療法として、再生医療の選択肢もあります。患者さまの細胞を利用した治療法のため、拒否反応のリスクが低い安全な治療方法です。
再生医療については、当院「リペアセルクリニック」にご相談ください。

監修者
渡久地 政尚
Masanao Toguchi
医師
略歴
1991年3月琉球大学 医学部 卒業
1991年4月医師免許取得
1992年沖縄協同病院 研修医
2000年癌研究会附属病院 消化器外科 勤務
2008年沖縄協同病院 内科 勤務
2012年老健施設 かりゆしの里 勤務
2013年6月医療法人美喜有会 ふたこクリニック 院長
2014年9月医療法人美喜有会 こまがわホームクリニック 院長
2017年8月医療法人美喜有会 訪問診療部 医局長
2023年12月リペアセルクリニック札幌院 院長