高次脳機能障害の回復期間の目安は1年!症状やリハビリ方法も解説
公開日: 2025.03.08更新日: 2025.04.28
高次脳機能障害とは、脳の一部がダメージを受けたために、思うような行動が取れなくなったり、注意力や記憶力に問題を生じたりする障害です。
高次脳機能障害は完治が難しいと考えられていますが、リハビリを受けることで症状の回復が見込めます。
「どのくらいの期間で回復できるか知りたい」と不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、高次脳機能障害の回復期間やリハビリプログラムについて解説しています。
高次脳機能障害を根本的に解決できる可能性がある再生医療についてもまとめていますので、参考にしてみてください。
目次
高次脳機能障害の回復期間の目安は1年!リハビリが早いほど改善傾向あり
高次脳機能障害とは、脳の損傷に伴って記憶力・注意力・思考力・言語能力・感情など、認知脳機能に障害が起こる後遺症の一種です。
主な原因は脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)や、交通事故などが原因となりがちな頭部外傷とされています。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、周囲の方や患者さまご本人も障害に気づきにくいのが特徴です。
適切なリハビリを受けると、症状が回復する可能性があります。
この項目では、高次脳機能障害の具体的な回復期間について解説します。
リハビリ後に6カ月で74%、1年で97%の方に改善がみられる
高次脳機能障害のリハビリを受けた方で、一定の効果がみられた割合は以下の通りです。※
※出典:高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版)
- 発症から半年:74%
- 発症から1年:97%
高次脳機能障害は、発症早期に適切な訓練を受けるのが重要です。
多様な種類のリハビリがあるので、医療機関や福祉施設など、さまざまなサービスと連携して行います。
リハビリの効果には個人差がありますが、合計1年を目安とした訓練を受けるのが望ましいです。
発症からリハビリ開始までの期間が短いほど改善に期待できる
高次脳機能障害は、発症からリハビリ開始までの期間が短いほど、改善に期待ができます。
発症からリハビリを受けた期間と、症状が改善した患者様の割合を以下にまとめました。※
※出典:平成13年度高次脳機能障害支援モデル事業 年次報告 (北海道・札幌市)
- 発症から6カ月以内に訓練開始:46%が改善
- 6か月から1年以内に訓練開始:32%が改善
- 1年以上経ってから訓練開始:14%が改善
高次脳機能障害は外見からはわかりにくく、患者さま本人やご家族も障害に気づかない場合や、気付くのが遅れる場合もあります。
上記のデータでは、発症から時間が経ってしまうと十分な効果を得にくい傾向があることがわかります。
リハビリは医療機関やリハビリテーションセンターで受けられるので、心配な方は受診を検討してください。
高次脳機能障害から回復・社会復帰するまでのリハビリプログラム
高次脳機能障害のリハビリは、患者さまの日常生活の自立を促すために行われます。
発症直後は、心理カウンセリングや薬物治療などの医学的リハビリプログラムで、認知障害に対して適切な処置を行います。
時間の経過とともに日常生活や就労に必要な技能の習得を目指すのが一般的です。
以下では、高次脳機能障害から回復・社会復帰するまでのリハビリプログラムを詳しく紹介します。
医学的リハビリテーションプログラム
医学的リハビリテーションプログラムとは、病院や診療所などで行います。
高次脳機能障害の発症後は、とくに重視されていて時間の経過とともに、徐々に他のリハビリプログラムに切り替わります。
以下では、高次脳機能障害の症状とリハビリの内容をまとめました。
一つづつみていきましょう。
記憶障害の症状とリハビリ内容
高次脳機能障害の症状である記憶障害の症状は以下の通りです。※
※出典:医学的リハビリテーションプログラム | 国立障害者リハビリテーションセンター
- 最近の出来事を思い出せない
- 約束事を忘れてしまう
- 同じ事を繰り返して質問する
- 新しいことが覚えられない
記憶障害のリハビリでは、どのような記憶に問題が生じているか、どの程度の時間は記憶できるのかなどを把握しながら進めるのが重要です。
具体的なリハビリの内容を以下にまとめました。
- 内的記憶戦略法:言語の関連付けやイラストなどで物事を覚えやすくする
- 外的補助手段:ノートや手帳、スマートフォンなどを使用して記憶を補う
上記の訓練を繰り返し行ったり、思い出しやすい環境を整えたりします。
注意障害の症状とリハビリ内容
注意障害も高次脳機能障害の症状の一つに挙げられます。
主な症状は以下の通りです。※
※出典:医学的リハビリテーションプログラム | 国立障害者リハビリテーションセンター
- 落ち着きがなくなる
- 周囲の状況を判断せずに行動を起こす
- 作業が長い時間続けられない
- 同時に複数の作業が難しい
注意障害では、集中し続けるのが難しく、作業が途切れがちです。
訓練は簡単な課題からはじめたり、個室で決まった支援者と作業したりするなどの集中しやすい環境を整えるのが重要です。
具体的にはパズルやまちがい探し、教育関連のテキスト、電卓の計算、校正作業などを行います。
遂行機能障害の症状とリハビリ内容
遂行機能障害の症状は以下の通りです。※
※出典:医学的リハビリテーションプログラム | 国立障害者リハビリテーションセンター
- 約束の時間に間に合わない
- 仕事を途中で投げ出してしまう
- メモや手帳を活用して、記憶障害を補うことが難しい
遂行機能障害では、患者さま自身の能力や置かれている状況を把握する能力や計画する能力などと深い関わりがあります。
また、記憶障害や注意障害が原因の可能性も考えられるので、どのような能力に問題があるのか掴むのが重要です。
リハビリではワークブックや組み立てキット、書類の作成や社会生活におけるスケジュール管理などを通じて以下の訓練を行います。
- 必要な行為や動作の練習
- 計画を一緒に考える
- マニュアルを利用して手順通りに作業を行う
遂行機能障害は、段取りを考えるのが難しい一方で、習慣化した動作をとるのは得意な場合があります。
行動を習慣化するのも一つの手です。
社会的行動障害の症状とリハビリ内容
社会的行動障害は欲求や感情のコントロールが難しくなるのが主な症状です。※
※出典:医学的リハビリテーションプログラム | 国立障害者リハビリテーションセンター
- 興奮して大声を出す
- 自傷行為
- 自分が中心でないと満足しない
リハビリでは、静かでたくさんの人に囲まれない環境を整えた上で、どのような物事がきっかけで症状が現れるかや対処法を患者さまと考えます。
生活訓練プログラム
生活訓練プログラムとは、日常生活が安定したり、積極的な社会参加ができるようになったりすることを目指します。
患者さま本人だけでなく、ご家族にも働きかけます。
以下では、生活訓練プログラムの内容をまとめました。
順番に紹介します。
生活リズムの確立
生活訓練プログラムでは、生活リズムを整えるのが重要です。
高次脳機能障害では、記憶力や意欲の低下によって、日課を組み立てて行動するのが難しい場合があるためです。
施設に入所して規則正しい生活を身につけ、日中の訓練と訓練の空き時間を少なくすると安定する傾向にあります。
生活で必要な管理能力の向上
生活管理能力の向上も生活訓練プログラムの一つに挙げられます。
患者さま自身が進んで日課をこなすために、施設では以下の訓練を行います。
- スケジュール帳の活用
- 目印や案内の表示に沿って行動する
- その日のスケジュールを確認する時間をとる
- チェック表や薬ボックスを使用して服薬を管理する
- 小遣い帳を使用して金銭を管理する
スケジュール帳や薬ボックスなど、シンプルでわかりやすいものを使用して、自己管理の習慣化を図ります。
社会生活技能の獲得
社会生活技能では、地域での生活や患者さまの目標に沿って外出や生活体験の実習を行います。
具体的な内容は買い物や交通機関の利用、調理などです。
支援者から実習の場で評価や助言があるので、次回に活かせるようにしましょう。
社会的コミュニケーション能力の向上
社会的なコミュニケーション能力を向上するために、施設の患者さま同士でグループワークを行います。
意見の交換や役割分担などは、コミュニケーション能力の向上に効果的です。
グループワークでは、福祉制度を学んだり、外出の計画をしたりします。
また、他の施設の患者さまと共に日課をこなし、交流するのも重要な訓練です。
障害の自己認識と現実的な目標設定
生活訓練プログラムでは、障害の認識を深め、現実的な目標が設定できるようになる支援も行っています。
具体的な内容は以下の通りです。
- 外出や課題の訓練のフィードバックを受ける
- 患者さま同士のトラブルがあった際、支援者による客観的なフィードバックを受ける
- 一般企業や就労継続支援事業所にて実習する
実習の結果は、職員から直接本人に伝えてもらうとより高い効果が期待できます。
必要とする支援の明確化
必要とする支援の明確化も生活訓練プログラムの一つです。
患者さま本人の希望と支援者が提案する支援内容や方向性の間にギャップが生じる場合があるためです。
現在は何が必要かを考え、支援者の提案に患者さまが消極的でも実際に試してみましょう。
スムーズに適応する可能性があります。
家族への支援体制
生活訓練プログラムでは、ご家族の支援も重要です。
患者さまが障害を負ったことへのショックは大きく、受け止めるまでには時間がかかるでしょう。
主な内容は以下の通りです。
- ご家族の不安や負担の軽減を図る
- 患者さまの障害について理解してもらう
- 相談を受ける
- サポートや介護の情報提供
- 家族懇談会の開催
ご家族が孤立しないよう、継続的に支援を受けられます。
就労移行支援プログラム
就労移行支援プログラムは、一般企業や在宅で働きたいとお考えの患者さまを対象に、障害者支援施設が行います。
- 必要な知識や能力を高めるトレーニングを行う
- 施設内外で職場実習を行い、さまざまな職業の体験
- 患者さまの能力にあった仕事探し
- 職場や患者さまに連絡をとり、就職後も長く働けるような支援を行う
日頃の生活リズムや訓練を通じて、適性を見極めるのが重要です。
希望と現実の間にギャップがある場合は、長期的な目標と短期的な目標を設定し、段階的にステップアップしていくことが一般的です。
高次脳機能障害の回復に向けた選択肢「再生医療」について
再生医療の幹細胞治療は損傷した組織や機能回復を促し、高次脳機能障害の回復に期待ができる治療法です。
幹細胞は、損傷した脳細胞の修復や再生を促すのが主な働きです。
幹細胞治療では、患者さまから採取した幹細胞を培養し、1000万個~2億個に増やしてから体内に投与します。
当院(リペアセルクリニック)では、高次脳機能障害の治療事例も多数ございます。
例えば以下記事で紹介している60代の男性は、脳梗塞発症後のさまざまな後遺症にお悩みでした。
幹細胞治療を受けた数週間後には、以下のような症状の改善がみられました。
- 左手のしびれ:完全に取れる
- 不整脈:治まる
- 呂律がまわりにくい:若干感じるがかなり改善
- 考えていることがスムーズに話せない:スムーズな発語が可能に
一般的な治療では、回復までに1年が目安と紹介しましたが、再生医療では数週間で大きな効果が期待できます。
このままの治療で症状がよくなるのか不安に感じている方は、お気軽にご相談ください。
脳卒中のお悩みに対する新しい治療法があります。
【まとめ】高次脳機能障害の回復期間は1年が目安!リハビリ開始は早いほど改善に期待できる
高次脳機能障害の回復期間は1年が目安です。また、治療の開始は発症から早いほど症状の改善に期待できます。
高次脳機能障害リハビリプログラムは、発症後すぐに行う医学的リハビリテーションプログラムから始め、症状に合わせて日常生活や就労の訓練を行います。
ご自身の症状や目標に合わせて、適切なプログラムを選択し、継続的にリハビリに取り組むことが大切です。
ただし、高次脳機能障害を含む脳卒中の後遺症は一定の期間が過ぎてしまうと、リハビリ以外に有効な治療法がなく、そのリハビリも慢性期を過ぎると劇的な効果は期待できなくなります。
そのような状況において、リハビリ以外の選択肢として「再生医療」が新たな治療の選択肢として注目されています。
再生医療の効果にも個人差はありますが、例えば以下のような後遺症に対して、少しでも改善が期待できる選択肢です。
- うまく話せない
- 痺れや麻痺をなんとかしたい
- もうこれ以上の機能の回復が見込めないと診断を受けた方
- リハビリの効果を高めたい
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の再発を予防したい
また、再生医療の治療効果は、脳卒中の発症後から早期であればあるほど改善が期待できます。
高次脳機能障害を根本的に治療したいとお考えの方は、当院の再生医療をご検討ください。

監修者
圓尾 知之
Tomoyuki Maruo
医師
略歴
2002年3月京都府立医科大学 医学部 医学科 卒業
2002年4月医師免許取得
2002年4月大阪大学医学部附属病院 脳神経外科 勤務
2002年6月関西労災病院 脳神経外科 勤務
2003年6月大阪大学医学部附属病院 脳神経外科 勤務
2003年12月大阪母子医療センター 脳神経外科 勤務
2004年6月大阪労災病院 脳神経外科 勤務
2005年11月大手前病院 脳神経外科 勤務
2007年12月大阪大学医学部附属病院 脳神経外科 勤務
2012年3月大阪大学大学院 医学系研究科 修了(医学博士)
2012年4月大阪大学医学部 脳神経外科 特任助教
2014年4月大手前病院 脳神経外科 部長