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iPS細胞で治せる病気は?実用化された治療と研究中の疾患を解説

iPS細胞は、皮膚や血液などの細胞から作製でき、神経や心筋、網膜などの細胞へ変化させられる多能性幹細胞です。
2026年3月には、パーキンソン病と虚血性心筋症による重症心不全を対象としたiPS細胞由来製品が、日本で条件及び期限付き承認を取得しました。
ただし、iPS細胞によってあらゆる病気を治療できるわけではなく、承認された製品の対象となる患者様や使用できる医療機関は限られます。
本記事では、iPS細胞を用いた治療の仕組みや承認された対象疾患、臨床研究・治験が進む病気、治療を検討するときの注意点を解説します。
目次
iPS細胞で治せる病気はまだ限られている
- 条件及び期限付き承認を取得した対象は2つ
- 承認と一般的な治療としての普及は異なる
- 多くの病気は臨床研究・治験段階
ここでは、2026年時点におけるiPS細胞治療の実用化状況を解説します。
2026年7月時点で、日本で条件及び期限付き承認を取得しているiPS細胞由来製品の対象は、パーキンソン病と虚血性心筋症による重症心不全です。
対象疾患に該当していても、既存治療の効果や全身状態などの条件を満たさなければ、製品を使用できるとは限りません。
また、条件及び期限付き承認は、実際の医療現場で使用しながら有効性や安全性のデータを集め、期限内に改めて評価を受ける制度です。
そのため、承認されたことと、効果が保証されたことや全国の医療機関ですぐに受けられることは同じではありません。
加齢黄斑変性、脊髄損傷、1型糖尿病、がんなどへの応用も進んでいますが、現時点では研究や治験として実施されているものが中心です。
※参照:厚生労働省「承認された再生医療等製品について」
iPS細胞を用いた治療の仕組み
ここでは、iPS細胞を作製して治療へ用いるまでの2つの工程を解説します。
iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞に初期化因子を導入し、さまざまな細胞へ変化できる状態に戻した細胞です。
作製したiPS細胞はそのまま患者様へ投与するのではなく、治療目的に合った細胞へ分化させて使用します。
神経細胞や心筋細胞などへ分化させた細胞を移植し、失われた機能の一部を補うことが主な治療の仕組みです。
※参照:京都大学iPS細胞研究所「iPS細胞とは?」
患者や提供者の細胞からiPS細胞を作製する
iPS細胞を用いた治療には、患者様本人の細胞から作る自家移植と、健康な提供者の細胞から作る他家移植があります。
自家移植は患者様本人と同じ遺伝情報を持つため、移植後の免疫拒絶を抑えられる可能性があります。
一方で、患者様ごとにiPS細胞を作製して安全性を調べるには、長い期間と高額な費用が必要です。
現在の製品開発では、事前に品質を確認した健康な提供者由来のiPS細胞を複数の患者様へ使用する方法が中心となっています。
必要な細胞へ変化させて患部へ移植する
治療では、iPS細胞を神経前駆細胞、心筋細胞、網膜色素上皮細胞などへ分化させてから患部へ移植します。
パーキンソン病ではドパミンを作る神経細胞の前段階に当たる細胞を脳へ移植し、不足した働きを補うことを目指します。
心不全に対する心筋細胞シートでは、心臓の表面へ細胞を貼り付け、細胞から分泌される物質によって心筋の状態を改善することが期待されています。
未分化のiPS細胞が残ると腫瘍形成につながる可能性があるため、目的の細胞へ分化しているかを厳格に検査する必要があります。
※参照:国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞由来の移植細胞中に残存する未分化iPS細胞検出法の高感度化に成功」
実用化されたiPS細胞治療の対象となる病気
ここでは、2026年3月6日に条件及び期限付き承認を取得した2つのiPS細胞由来製品について解説します。
パーキンソン病にはドパミン神経前駆細胞製品の「アムシェプリ」が承認されています。
虚血性心筋症による重症心不全には、心筋細胞シート製品の「リハート」が承認されています。
どちらも既存治療で十分な効果が得られない患者様などを対象としており、希望すれば誰でも受けられる治療ではありません。
※参照:厚生労働省「承認された再生医療等製品について」
パーキンソン病
パーキンソン病では、脳内でドパミンを作る神経細胞が減少し、手足のふるえや動作の遅さ、筋肉のこわばりなどが現れます。
アムシェプリは、非自己iPS細胞から作製したドパミン神経前駆細胞を脳の被殻へ移植し、運動症状の改善を目指す製品です。
医師主導治験では7人へ移植され、24カ月の観察期間中に重篤な有害事象や移植細胞による腫瘍形成は認められず、細胞の生着とドパミン産生が確認されました。
承認対象は、レボドパを含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない患者様であり、薬物療法を受けているすべての患者様が対象になるわけではありません。
※参照:京都大学iPS細胞研究所「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験において安全性と有効性が示唆」
虚血性心筋症による重症心不全
虚血性心筋症は、心筋梗塞などによって心臓の筋肉へ十分な血液が届かなくなり、心臓のポンプ機能が低下する病気です。
リハートは、他家iPS細胞から作った心筋細胞をシート状にし、開胸手術によって心臓の表面へ貼り付ける製品です。
移植したシートが心筋を完全に置き換えるのではなく、サイトカインなどを分泌して血流や心筋の状態を改善することが期待されています。
薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で十分な効果が得られない重症心不全が対象となり、承認後も有効性と安全性の確認が続けられます。
※参照:クオリプス株式会社「リハート(iPS細胞由来心筋シート)」
iPS細胞治療の臨床研究・治験が進む病気
ここでは、iPS細胞を用いた臨床研究や治験が進められている代表的な病気を解説します。
研究の段階や対象となる患者様、確認されている安全性と有効性は、病気や研究計画によって異なります。
臨床研究や治験が行われていることは、その治療を一般診療として受けられることを意味しません。
研究への参加には年齢、病状、治療歴などの条件があり、参加後も長期間の経過観察が必要になる場合があります。
目の病気|加齢黄斑変性・角膜上皮幹細胞欠損症
目の病気は、移植部位を直接観察しやすく、比較的少ない細胞数で治療できることから、早くからiPS細胞の臨床応用が進められてきました。
加齢黄斑変性などでは、iPS細胞から網膜色素上皮細胞を作製し、網膜の下へ移植して視細胞を支える機能の維持を目指す研究が行われています。
角膜上皮幹細胞疲弊症では、iPS細胞由来の角膜上皮細胞シートを移植した4例の臨床研究で、腫瘍形成や臨床的な拒絶反応を含む重篤な有害事象は確認されませんでした。
症状の改善を支持する結果が報告されていますが、対象となる病型や症例数は限られており、治験を通じた追加検証が必要です。
※参照:大阪大学大学院医学系研究科・医学部「iPS細胞から作製した角膜上皮細胞シートを移植する世界初の臨床研究を完了」
神経・内分泌・血液の病気|脊髄損傷・1型糖尿病・再生不良性貧血
亜急性期の脊髄損傷では、iPS細胞由来の神経前駆細胞を損傷部へ移植し、神経回路や運動機能の回復を目指す臨床研究が行われました。
2026年には移植後最長4年間の追跡結果が報告され、移植細胞に起因する腫瘍形成や重篤な有害事象は認められなかったとされています。
※参照:慶應義塾大学「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療の臨床研究、最長4年間の追跡で長期安全性を支持」
1型糖尿病では、iPS細胞からインスリンを分泌する膵島細胞を作製し、腹部の皮下へ移植する医師主導治験が進められています。
※参照:京都大学医学部附属病院「iPS由来膵島細胞シート移植に関する医師主導治験の開始について」
再生不良性貧血では病気自体をiPS細胞で治療するのではなく、血小板輸血不応を伴う患者様に対して、本人由来のiPS細胞から作った血小板を輸血する臨床研究が行われました。
※参照:京都大学iPS細胞研究所「血小板減少症に対するiPS細胞由来血小板の自己輸血に関する臨床研究の成果公表」
がん|頭頸部がん・卵巣がんなど
がん領域では、iPS細胞から大量の免疫細胞を作製し、がん細胞への攻撃に利用する研究が進められています。
頭頸部がんでは、iPS細胞から作製したNKT細胞を患者様へ投与する医師主導治験が行われました。
卵巣明細胞がんでは、特定のがん抗原を認識するよう加工したiPS細胞由来のNK細胞を腹腔内へ投与する第Ⅰ相治験が実施されています。
これらは臓器を新しい細胞へ置き換える治療ではなく、iPS細胞から作製した免疫細胞の働きを利用するがん免疫療法です。
※参照:国立研究開発法人日本医療研究開発機構「世界初、iPS-NKT細胞を血管内に直接投与―頭頸部がんの治療を目指した医師主導治験を開始」
iPS細胞治療で知っておきたいリスクと課題
- 未分化細胞や異常細胞による腫瘍形成
- 提供者由来の細胞に対する免疫拒絶
- 移植手術や免疫抑制剤による合併症
- 長期的な安全性と効果の持続期間
- 製造費用と実施施設の少なさ
ここでは、iPS細胞治療を検討する前に理解しておきたい主なリスクと課題を解説します。
重要な課題の一つは、移植する細胞に未分化なiPS細胞や異常な細胞が混入し、腫瘍を形成する可能性を抑えることです。
他家細胞を使用する治療では、移植細胞が患者様の免疫によって異物と判断されるため、免疫抑制剤が必要になる場合があります。
脳や心臓などへの移植には手術が必要であり、出血、感染、不整脈など、手術部位に応じた合併症にも注意が必要です。
少数の患者様を対象とした研究で問題が確認されなくても、まれな副作用や数年後の影響を把握するには長期間の追跡が欠かせません。
同じ品質の細胞を大量に作製する技術や輸送体制、治療費、実施できる医療機関の整備も、普及に向けた課題です。
※参照:国立研究開発法人日本医療研究開発機構「iPS細胞由来の移植細胞中に残存する未分化iPS細胞検出法の高感度化に成功」
iPS細胞を使った治療を検討するときの注意点
- 実際に使用する細胞の種類を確認する
- 承認済み・治験中・自由診療を区別する
- 対象疾患と参加条件を確認する
- 標準治療を自己判断で中断しない
ここでは、iPS細胞治療や関連する再生医療を検討するときに確認したいポイントを解説します。
「幹細胞治療」や「再生医療」と表示されていても、実際にiPS細胞を用いる治療とは限りません。
脂肪や骨髄に含まれる体性幹細胞、血液から作るPRP、免疫細胞などを用いる治療は、iPS細胞治療とは作製方法や対象疾患が異なります。
承認された製品かどうかはPMDAの承認品目一覧、臨床研究や治験の内容はjRCTなどの公的な登録情報で確認できます。
※参照:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「新再生医療等製品の承認品目一覧」
治験への参加を検討するときは、研究の目的、対象条件、予想される利益と不利益、費用、補償、参加後の通院期間について説明を受けましょう。
現在受けている薬物療法や手術、リハビリテーションを自己判断で中断せず、主治医と相談しながら治療方針を検討してください。
損なわれた組織・臓器の機能改善を目指す再生医療という選択肢
- iPS細胞は再生医療で用いる細胞の一つ
- 体性幹細胞やPRPを用いる治療もある
- 治療ごとに対象疾患と科学的根拠が異なる
ここでは、iPS細胞治療と、そのほかの再生医療との違いについて解説します。
再生医療は、細胞や血液成分などを利用し、病気やけがによって損なわれた組織や機能の修復・維持を目指す医療です。
iPS細胞を用いる方法のほか、脂肪や骨髄に存在する体性幹細胞を培養して投与する方法や、血小板を含むPRPを用いる方法があります。
リペアセルクリニックで行う自己脂肪由来幹細胞治療は、患者様の脂肪組織に含まれる体性幹細胞を用いるものであり、iPS細胞を用いた治療とは異なります。
それぞれの再生医療は対象となる病気や投与方法、期待される作用、安全性に関するデータが異なるため、名称だけで比較することはできません。
再生医療を検討する際は、現在の標準治療を継続したうえで、治療の対象や根拠について再生医療に精通した医師へ確認しましょう。
※参照:厚生労働省「再生・細胞医療・遺伝子治療について」
まとめ|iPS細胞で治療できる病気は今後増える可能性がある
2026年7月時点では、パーキンソン病と虚血性心筋症による重症心不全を対象としたiPS細胞由来製品が、国内で条件及び期限付き承認を取得しています。
ただし、対象となる患者様や実施できる施設は限られ、承認後も有効性と安全性を確認するための調査が続けられます。
目の病気、脊髄損傷、1型糖尿病、血液疾患、がんなどへの応用も進んでいますが、多くは臨床研究や治験の段階です。
治療を検討する際は、承認済みの製品、治験、自由診療を区別し、現在の治療を自己判断で中断しないことが大切です。
一方で、iPS細胞とは異なる体性幹細胞やPRPを用いた再生医療もあり、病気によっては治療の選択肢となる場合があります。
再生医療の種類や適応について詳しく知りたい方は、リペアセルクリニックの公式サイトや無料相談をご活用ください。
監修者
岩井 俊賢
Toshinobu Iwai
医師
























