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iPS細胞の作り方とは?山中因子と作製工程をわかりやすく解説

iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、皮膚や血液などの体細胞に少数の因子を導入し、さまざまな細胞へ変化できる能力を持たせた幹細胞です。
役割が決まっていた細胞を未分化な状態へ戻す「リプログラミング(初期化)」によって作られるため、受精卵を使わずに作製できる点が大きな特徴です。
作製の流れ自体はシンプルに整理できますが、実際には専門的な培養設備と厳格な品質管理が欠かせません。
本記事では、iPS細胞の作り方の基本的な工程、山中因子の役割、品質と安全性の確かめ方までをわかりやすく解説します。
iPS細胞の仕組みを基礎から知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
iPS細胞は体細胞を初期化して作る多能性幹細胞
iPS細胞は、皮膚や血液などから採取した体細胞に特定の因子を導入し、細胞の状態を初期化することで作られます。
この初期化の操作を、専門用語でリプログラミングと呼びます。
体細胞にごく少数の因子を導入して培養すると、さまざまな組織や臓器の細胞へ分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力を持つ多能性幹細胞に変化するとされています。
※参照:京都大学iPS細胞研究所CiRA「iPS細胞とは?|よくある質問」
本来、神経細胞や心筋細胞のように役割が決まった細胞は、ほかの種類の細胞に変わることはありません。
その決まっていた役割をいったんリセットし、「どの細胞にもなれる状態」へ巻き戻すという発想が、iPS細胞の出発点です。
iPS細胞を作る基本的な流れ
iPS細胞の作製は、体細胞の採取から品質評価まで、大きく5つの工程に整理できます。
- 体細胞を採取する
- 初期化因子を細胞へ導入する
- 一定期間培養する
- iPS細胞に変化した細胞を選別する
- 品質と安全性を評価する
このうち、とくに理解しておきたい3つの工程を順に解説します。
それぞれの工程で何が行われているのかを見ていきましょう。
皮膚や血液から体細胞を採取する
iPS細胞の材料には、皮膚の線維芽細胞や血液中の細胞などが使われます。
皮膚を数ミリ採取したり、採血をしたりといった比較的負担の少ない方法で材料が得られる点が、iPS細胞の大きな利点です。
この点が、受精卵から作られるES細胞(胚性幹細胞)との決定的な違いになります。
ES細胞は受精卵を壊して作るため倫理的な議論を伴いますが、iPS細胞は本人の体細胞から作れるため、その課題を原則として回避できるとされています。
また、患者本人の細胞から作れることは、将来的に移植した際の拒絶反応を抑えやすいという意味でも注目されています。
初期化因子を細胞に導入する
採取した体細胞には、初期化を引き起こす因子(遺伝子やRNAなど)を導入します。
導入された因子は、細胞の中で「どの遺伝子を働かせるか」というスイッチの組み合わせを切り替える働きをします。
その結果、皮膚の細胞として働くよう固定されていたスイッチの設定が解除され、多様な細胞へ変化できる未分化な状態へと戻っていきます。
細胞そのものを作り替えるのではなく、もともと備わっていた遺伝情報の使い方を書き換える技術だと考えるとイメージしやすいでしょう。
培養・選別してiPS細胞株を確立する
因子を導入したすべての細胞がiPS細胞になるわけではないため、培養後の選別が必要です。
因子を導入した細胞を専用の培養液で育てると、その一部がiPS細胞特有の形をしたコロニー(細胞の集まり)を作ります。
研究者はその中から目的の性質を備えた集団を見極めて取り出し、安定して増え続ける「細胞株」として確立します。
この工程には、雑菌が入らない環境を保つクリーンベンチや培養器、細胞の状態を見極める専門知識と技術が欠かせません。
細胞株の樹立からその後の評価まで含めると、数週間から数か月単位の時間を要するのが一般的です。
山中因子とは?4つの遺伝子の役割
山中因子とは、iPS細胞の作製に使われた4つの遺伝子(Oct3/4・Sox2・Klf4・c-Myc)を指します。
京都大学の山中伸弥教授らは、ES細胞などに特徴的に働く遺伝子24個をマウスの線維芽細胞に組み込む実験から出発し、必須の遺伝子を4つに絞り込むことに成功しました。
※参照:幹細胞情報データベースSKIP「iPS細胞」
それぞれの因子は、細胞内の遺伝子の働きを切り替え、体細胞を未分化な状態へ戻す役割を担っています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 4つの因子 | ・Oct3/4 ・Sox2 ・Klf4 ・c-Myc |
| 共通する働き | ・未分化な状態を保つ遺伝子群を働かせる ・特定の役割に固定する遺伝子の働きを抑える ・細胞の増殖を後押しする |
| 絞り込みの経緯 | 24個の候補遺伝子から必須の4つを特定 |
ただし、現在は当時と同じ組み合わせがそのまま使われているわけではありません。
安全性を高める目的で、腫瘍化に関わる可能性が指摘された因子を別の因子に置き換えたり、導入する方法自体を改良したりする研究が続けられています。
iPS細胞を作る方法は1つではない
iPS細胞の作製方法は、初期化因子を細胞へ届ける手段によっていくつもの選択肢があります。
最初の作製ではレトロウイルスベクターという運び手が使われましたが、この方法では因子の遺伝子が細胞のゲノムに組み込まれてしまう点が課題とされてきました。
そこで現在は、以下のようにゲノムを傷つけにくい手法の研究が進められています。
- エピソーマルプラスミド(ゲノムに組み込まれにくい環状のDNA)を使う方法
- RNAを直接導入する方法
- タンパク質を細胞に取り込ませる方法
- 低分子化合物を組み合わせる方法
いずれもがん化などのリスクを抑えた作製法を確立するという目的で開発が進められている技術です。
作り方が1つに固定されていないことは、iPS細胞が今も改良の途上にある研究技術であることを示しています。
作製した細胞がiPS細胞かどうかを確かめる方法
できあがった細胞がiPS細胞かどうかは、見た目だけでは判断できません。
コロニーの形が似ていても性質が異なる細胞は存在するため、複数の検査を組み合わせて確認する必要があります。
主な確認項目は以下のとおりです。
| 確認項目 | 確かめる内容 |
|---|---|
| 未分化マーカー | 未分化な状態に特徴的なタンパク質や遺伝子が現れているか |
| 多分化能 | 神経・心筋・腸などさまざまな種類の細胞へ分化できるか |
| 染色体・遺伝子 | 染色体の数や構造、遺伝子に異常が生じていないか |
| 微生物汚染 | 細菌やマイコプラズマ、ウイルスの混入がないか |
さらに、再生医療として人に使う細胞では、研究用よりも厳格な品質・安全性の評価が求められます。
製造の記録や工程の管理までを含めて確認する必要があり、これが実用化に時間を要する理由の一つです。
iPS細胞は自宅や個人で作れる?
結論として、iPS細胞は一般の方が自宅で作製できるものではありません。
作製には、以下のような環境と手続きが不可欠です。
- 細胞の採取や利用に関する倫理審査と同意取得の手続き
- 雑菌の混入を防ぐ無菌の培養設備
- 細胞の状態を見極める専門知識と技術
- 品質・安全性を検証する検査体制
- 使用後の細胞や器具を適切に処理する廃棄管理
これらは個人で用意できるものではなく、iPS細胞の作製は大学や研究機関、専門の細胞培養施設で行われています。
iPS細胞に関心があるなら、まずは研究機関が公開している解説資料や見学プログラムなどを通じて理解を深めるのが現実的な入り口です。
iPS細胞はどのように活用されている?
iPS細胞は、再生医療・病態の解明・創薬という3つの分野で活用が進められています。
iPS細胞から神経細胞や心筋細胞、血液の細胞などを作り出せるため、失われた細胞を補う治療の研究が各国で行われています。
また、患者本人の細胞から作ったiPS細胞を病気の細胞へ分化させれば、体外で病気の状態を再現して原因を調べたり、新薬候補の効果や副作用を評価したりできます。
注意したいのは、iPS細胞をそのまま移植するわけではないという点です。
未分化なiPS細胞には腫瘍を作る可能性が指摘されているため、目的の細胞へ分化させ、未分化な細胞が残っていないかを確認したうえで使用するのが一般的です。
まとめ|iPS細胞は体細胞の初期化と厳格な品質評価を経て作られる
iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞に初期化因子を導入し、培養・選別・品質評価という工程を経て作られる多能性幹細胞です。
山中因子の発見によって作製の道筋が示された一方で、安全性を高めるための作製法の改良は今も続けられています。
個人が扱える技術ではなく、倫理的な手続きと専門設備のもとで進められる研究分野である点も押さえておきたいところです。
一方で、体内にもともと存在する幹細胞を用いた再生医療は、すでに医療現場で行われています。
患者様ご自身の脂肪から採取した幹細胞を培養して投与し、損傷した組織の修復や機能の維持を目指す治療法です。
実際に行われている再生医療の内容は、リペアセルクリニックの公式サイトでもご紹介していますので、幹細胞治療の現在地を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
監修者
岩井 俊賢
Toshinobu Iwai
医師
























