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iPS細胞によるパーキンソン病治療とは?仕組み・研究状況・期待される効果を解説

パーキンソン病は、脳の中脳黒質にあるドパミン神経細胞が減少し、身体の動きを調整するドパミンが不足する病気です。
手足の震えや筋肉のこわばり、動作の遅さなどが現れ、進行すると薬の効果が続く時間が短くなることがあります。
iPS細胞による治療は、失われたドパミン神経細胞を補い、運動機能の改善を目指す新しい細胞移植治療です。
本記事では、iPS細胞によるパーキンソン病治療の仕組みや実用化の状況、期待される効果、課題、標準治療との違いを解説します。
目次
iPS細胞治療は失われた神経細胞の働きを補うことを目指す治療
iPS細胞によるパーキンソン病治療は、減少したドパミン神経細胞の働きを、新たに移植した細胞で補うことを目指す治療法です。
皮膚や血液などの体細胞から作製したiPS細胞には、神経や筋肉などさまざまな細胞へ変化できる性質があります。
この性質を利用してiPS細胞をドパミン神経前駆細胞へ変化させ、脳内の被殻へ移植します。
2026年3月には、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を用いる「アムシェプリ」が、条件及び期限付で製造販売承認を取得しました。
※参照:国立研究開発法人日本医療研究開発機構「人工多能性幹細胞―iPS細胞医療の研究開発・実用化」
ただし、すべての患者様が受けられる治療ではなく、既存の薬物療法による効果や全身状態などを踏まえて適応が判断されます。
iPS細胞によるパーキンソン病治療の仕組み
ここでは、iPS細胞をドパミン神経前駆細胞へ変化させ、脳内へ移植するまでの2つの段階を解説します。
パーキンソン病の細胞移植治療では、iPS細胞そのものを脳へ投与するわけではありません。
治療に必要な細胞へ分化させたうえで、目的外の細胞や増殖能力が残る細胞をできる限り取り除きます。
細胞の作製から移植後の経過観察まで、厳格な品質管理と安全性評価が必要です。
iPS細胞からドパミン神経細胞を作る
iPS細胞は、皮膚や血液などの体細胞へ特定の因子を導入し、さまざまな細胞に変化できる状態へ戻した多能性幹細胞です。
パーキンソン病治療では、培養条件を調整しながら、iPS細胞をドパミン神経細胞になる前段階のドパミン神経前駆細胞へ分化させます。
研究では患者様ご自身の細胞を使う方法と健康な提供者の細胞を使う方法がありますが、承認されたアムシェプリには非自己iPS細胞が用いられています。
移植に適した細胞を選別し、未分化な細胞や目的と異なる細胞が混入していないかを確認する工程が重要です。
※参照:京都大学iPS細胞研究所「iPS細胞とは?」
脳へ移植して神経機能の回復を目指す
作製したドパミン神経前駆細胞は、定位脳手術によって左右の被殻へ移植されます。
移植した細胞が脳内でドパミン神経細胞へ成熟し、ドパミンを産生することで運動症状の改善を目指します。
京都大学の治験では、移植から2年後も細胞がドパミンを作っていることがPET検査で確認されました。
移植した細胞が生着して機能を発揮するまでには時間がかかるため、手術直後に効果が現れる治療ではありません。
※参照:京都大学iPS細胞研究所「パーキンソン病の治療を目指して」
現在どこまで実用化されている?
パーキンソン病に対するiPS細胞治療は、研究だけの段階から、対象を限定して医療現場で使用される段階へ進んでいます。
2026年3月6日、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞のアムシェプリが、条件及び期限付で製造販売承認を取得しました。
同製品は2026年5月20日に販売が開始され、レボドパを含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない患者様の運動症状改善に用いられます。
治療は、パーキンソン病の診療と定位脳手術に必要な体制を備え、所定の要件を満たす医療機関に限られます。
承認後も製造販売後臨床試験や使用成績調査が行われ、有効性と長期的な安全性の検証が続けられます。
※参照:住友ファーマ株式会社「日本における非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞『アムシェプリ』の製造販売承認取得に関するお知らせ」
iPS細胞治療で期待される効果
iPS細胞治療で期待される主な効果は、震えや筋肉のこわばり、動作緩慢などの運動症状の改善です。
京都大学で行われた第Ⅰ/Ⅱ相治験では、7名の患者様へ細胞を移植し、有効性を評価できた6名のうち4名で、薬を使用していない状態の運動症状評価スコアが改善しました。
PET検査では移植部位におけるドパミン産生の増加も確認され、移植した細胞が脳内で機能する可能性が示されています。
一方で、少人数かつ比較対象を設けていない治験の結果であるため、効果の程度や持続期間には今後も検証が必要です。
治療によって薬剤量を調整できる可能性はありますが、服薬の変更や中止は症状を確認しながら主治医が判断します。
※参照:Nature「Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease」
iPS細胞治療の課題とリスク
iPS細胞治療では、移植した細胞の異常増殖や腫瘍形成、免疫拒絶などに注意する必要があります。
京都大学の治験では移植細胞の異常増殖や腫瘍形成は確認されませんでしたが、対象者数が限られているため、長期的な経過観察が欠かせません。
提供者由来の細胞を移植する場合は免疫抑制薬を使用することがあり、感染症や腎機能障害などの副作用にも配慮が必要です。
脳へ細胞を移植する手術には、出血や感染、神経症状などの手術に伴うリスクもあります。
条件及び期限付承認は最終的な本承認とは異なり、承認後の臨床試験によって有効性と安全性を改めて確認する制度です。
※参照:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「最適使用推進ガイドライン ラグネプロセル」
現在の標準治療との違い
パーキンソン病の治療では、現在も薬物療法、脳深部刺激療法、リハビリテーションなどが中心です。
薬物療法は不足したドパミンを補ったり、ドパミンの働きを助けたりすることで症状を調整します。
脳深部刺激療法は、薬物療法だけでは運動症状を安定して管理しにくい場合に検討される手術療法です。
iPS細胞治療は神経細胞を補う点が従来治療と異なりますが、対象となる患者様は限られ、既存治療との関係を含めて適応が判断されます。
| 治療法 | 主な役割 |
|---|---|
| 薬物療法 | 不足したドパミンを補う・ドパミン受容体を刺激する |
| 脳深部刺激療法 | 脳へ電気刺激を与え、運動症状や薬の効き方の変動を調整する |
| リハビリテーション | 歩行・姿勢・発声・嚥下などの身体機能と生活動作を維持する |
| iPS細胞治療 | ドパミン神経前駆細胞を移植し、神経機能を補うことを目指す |
治療法ごとに対象となる症状やリスクが異なるため、神経内科や脳神経内科の医師と相談して治療方針を決めることが大切です。
※参照:日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」
iPS細胞以外の再生医療研究
パーキンソン病では、iPS細胞以外にもES細胞、体性幹細胞、遺伝子治療などの研究が進められています。
ES細胞は受精卵の初期胚から作製される多能性幹細胞で、iPS細胞と同様にドパミン神経前駆細胞へ分化させて移植する研究が行われています。
遺伝子治療では、ドパミンの合成に必要な酵素の遺伝子などを脳内へ届け、神経機能を補う方法が研究されています。
脂肪や骨髄などに含まれる体性幹細胞を用いる治療も研究されていますが、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の移植とは仕組みや適応が異なります。
「再生医療」という名称が同じでも、使用する細胞、投与方法、科学的根拠、承認状況は治療ごとに確認する必要があります。
まとめ|iPS細胞治療は実用化が始まった新たな選択肢
パーキンソン病に対するiPS細胞治療は、失われたドパミン神経細胞の働きを補い、運動症状の改善を目指す治療法です。
2026年にはiPS細胞由来の再生医療等製品が条件及び期限付で承認され、対象を限定した実用化が始まりました。
一方で、対象となる患者様や実施できる医療機関は限られ、長期的な有効性と安全性の確認も続いています。
薬物療法や脳深部刺激療法、リハビリテーションにはそれぞれ異なる役割があり、現在の症状に合わせて組み合わせることが重要です。
iPS細胞治療を検討する際は、承認された治療と研究段階の治療を区別し、適応やリスクについて医師から説明を受けましょう。
パーキンソン病に対する再生医療の種類や治療法の違いを知りたい方は、リペアセルクリニックの公式サイトや無料相談も参考にしてください。
監修者
岩井 俊賢
Toshinobu Iwai
医師
























