糖尿病ってどんな病気?

2021.08.18

カテゴリー: 糖尿病

目次

 

糖尿病とは

 普段わたしたちが食べている食べ物は大きく分けてたんぱく質・脂質・炭水化物の三大栄養素に分けられます。健康な人でも炭水化物(ブドウ糖)を摂ると一時的に血糖値が高くなりますが、時間とともに正常値に収まります。

 糖尿病の人の場合、この血糖値が正常値に戻らず高い状態になります。これは「インスリン」という膵臓から分泌されるホルモンの分泌が少なかったり、「インスリン」が正常に働かないことが原因です。

 この国の糖尿病患者は生活習慣(食生活など)や社会環境の影響もあり昨今増加しています。糖尿病は一度発症すると、完全に治癒することはありません。放置すると網膜症・腎症・神経障害などの重篤な合併症により失明や透析治療を要することもあります。

 糖尿病は発症する原因によって「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他」「妊娠糖尿病」のタイプに分けられます。

 

インスリン

 インスリンは血糖値(からだの中のブドウ糖の量)を減らすホルモンです。インスリンは膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島とよばれる場所にあるβ細胞(ベータさいぼう)で作られています。

炭水化物は消化酵素のはたらきにより、ブドウ糖に分解され、小腸から吸収されます。このとき、小腸からGLP-1とよばれるホルモンが血中に放出されます。

 血液のなかのブドウ糖が増えると、このホルモンが血液を介して膵臓にインスリンを放出するように命令します。その結果、ブドウ糖を臓器や筋肉に取り込ませます。また体の中の筋肉などに送りこまれたブドウ糖を、解糖系と呼ばれる体を動かすエネルギーに変えることを促進します。このようにしてインスリンは血糖値を調整するはたらきを持っています。

 

1型糖尿病と2型糖尿病

1型糖尿病

 1型糖尿病はこどもや青年に多く、若年性糖尿病とよばれることもあります。膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が壊されたり、障害されることで発症します。

 最初に風邪の様な症状があり、そのあと喉が渇いたり尿の量が多くなったり急激にやせるなどの症状がみられます。原因はまだ不明なことが多いですが、自己免疫性が発症の90%を占めています。

 自己免疫は本来、体の外の敵から自分の体を守るためにはたらくものですが、誤って自分のからだのβ細胞を標的にしてしまうことが発生の原因と言われています。この発症にはウイルス感染と関連があるといわれています。主なものエンテロウイルス(いわゆる風邪)・ムンプス(おたふく風邪)などです。

 1型糖尿病はインスリン依存型糖尿病(IDDM)とよばれ、ほとんどの場合インスリン療法が必要不可欠となります。

 

2型糖尿病

 2型糖尿病は最も一般的な糖尿病で、糖尿病のうち90%以上がこの2型糖尿病です。40歳を超えたあたりで発症することが多いです。この国では男性にやや多く発症します。

 太っている人・または過去に太っていた人に多いといわれていますが、太っていなくてもインスリン感受性の低い人は発症することがあるので注意が必要です。原因はさまざまで、体質や、高カロリーな食生活・高脂肪食・運動不足などの生活環境の組み合わせでの発症が考えられます。

 遺伝によって発症することも知られており、親が糖尿病だったという人が多いのもこのタイプの糖尿病の特長です。その結果、インスリンの分泌量や作用不足(効きにくくなる)が起こります。このインスリンの作用不足はインスリンの分泌能が低くなるという原因と、肝臓や筋肉がインスリンに対する抵抗性(効きにくくなる)が原因となります。

 インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)ともよばれますが、治療にインスリンを用いることもあります。

 症状は2型糖尿病の場合、初期症状はほとんどなく、早期発見が難しいです。悪化するにしたがって、口の中が渇く(口渇)、喉が渇きやすくなる(水分を多く摂るようになる)、トイレが近くなる、体重が減る、疲れやすくなるといったような症状がみられます。また、血糖値が上がりすぎると、意識障害を起こすことがあります。

 さらに悪化すると、糖尿病網膜症(目の網膜にある血管に出血がおこったり、異常な血管が出来てしまうことで視力が低下したり失明などを引き起こす)、糖尿病性腎症(腎臓の血管が破壊されることにより、腎臓の機能が低下し、腎不全などを起こす)といった合併症がみられます。

 一度発症すると完全に治ることはありません。

 

要因

 2型糖尿病は遺伝によっても発症しますが、ストレスや肥満や過食・運動不足によっても発症する生活習慣病の一つです。そのため、このような要因を心がけていれば未然に防ぎ糖尿病になりにくい日常生活を送ることが出来ます。

 昨今、2型糖尿病が増えている背景には急速な食の欧米化が挙げられます。もともとアジア人はインスリンの分泌能が低いため、こうした食の欧米化に膵臓が対応できず、血糖値の高い状態となります。このような食生活を改善し、カロリーを必要以上に摂ることなく生活を送ることが食事療法の基本となります。

 

関連する合併症

 合併症の中には急性合併症と慢性合併症があります。急性合併症は、糖尿病ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群があります。慢性合併症は血糖値が高い状態を放置していると、血管をボロボロに傷付け、動脈の老化を進めることで起こります。血管病には大きい血管が障害される大血管症と、小さい血管が障害される細小血管症に分けられます。

 

糖尿病ケトアシドーシス

 糖尿病ケトアシドーシスは血糖値を下げるインスリンが作用しないことで起こります。ブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなるため、からだは代わりに脂肪をエネルギーとして分解しエネルギーを作り出します。脂肪を分解するとケトン体という物質が血液中に増えます。これにより血液中が酸性になり、ケトアシドーシスになります。

 重度な脱水状態になり、急に喉が渇いて水をたくさん飲んだり、尿がたくさん出て全身のだるさがみられます。吐き気や腹痛がみられることもあります。また、高血糖状態により意識障害や昏睡になることもあります。

 インスリンの不足で起こるので、1型糖尿病を発症したときや、インスリンを適切に投与されなかったときなどに起こります。また、適切に投与していた場合でも、全身状態が悪い時などは高血糖状態となりケトアシドーシスとなることがありますので、こまめな血糖値測定が必要となります。

 1型糖尿病だけでなく、2型糖尿病でもジュースを大量に飲んだ時などに起こることがあります。これはソフトドリンクケトーシスとよばれ、1日に何リットルもジュースを飲んだ際などに大量の糖が血中を流れ、血糖値の急上昇が起こります。それにより昏睡状態になることがあります。インスリン注射を必要としていない患者さんにも起こり得るので注意が必要です。

 

高浸透圧高血糖症候群

 高浸透圧高血糖症候群は糖尿病ケトアシドーシスと同じく高血糖をきたす急性合併症です。重度の高血糖状態と極度の脱水や意識障害を引き起こします。高齢者に多く、感染症や嘔吐・下痢による脱水などの糖尿病以外の病気が引き金になることもあります。

 

大血管症

 高血糖状態が続くと、大血管では動脈硬化が進行します。動脈硬化は糖尿病をはじめとして、高脂血症や高血圧症、喫煙などでも起こりやすいです。初期の動脈硬化は動脈の内側の壁にさまざまな物質が沈着して分厚くなったり、硬化したり、プラークとよばれる隆起ができます。このプラークが剥がれることによって血管で詰まることにより、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患(PAD)などさまざまな合併症を起こします。

 脳梗塞は脳の血管が詰まることで発症します。突然の意識障害や意識消失、左右どちらかの手足の麻痺、ろれつが回らなくなるといった症状を引き起こします。場合によっては一時的に症状が治まることもありますが、時間が経つにつれて症状は悪化しますので注意が必要です。早期に受診出来るかが今後の予後に大きくかかわるので早急に医療機関へ受診しなければいけません。

 心筋梗塞は心臓の血管が動脈硬化により狭くなることで発症します。狭くなった心臓の血管に血栓などが詰まることにより心筋が酸素不足になり壊死します。血流が止まると約20分で心筋の壊死がはじまり、一度壊死した心筋細胞は元には戻らないので早期に処置が必要となります。初期には体を動かすときに胸が痛くなり、安静にしていると収まる狭心痛が特徴的です。

 

細小血管症

 細小血管症は細い血管が集中している場所で合併症が起こります。主に、眼・腎臓・神経です。

 まず眼の網膜の中の血管に障害(網膜の中の血管に出血したり、異常な血管ができる)によって、視力の低下や、失明が起こります。

 腎臓は血液をろ過し、体に不要なものを体の外へ排出する役割を持っています。このろ過に関与する糸球体とよばれる場所の毛細血管が壊されることによって腎臓の機能が低下します。これを腎不全といいます。

 腎症が進行するにしたがって、薬で血圧を下げなければならなくなったり、たんぱく質を厳しく制限された食事療法などが必要となります。さらに進行すると、人工透析により機械で血液をろ過することが必要となります。

 神経は細い血管によって栄養されています。神経細胞への血流が障害されることで、神経に障害が起こります。手足にしびれがでたり、感覚や痛みにも鈍感になっていたり感じにくくなっているため、足のケガややけどに気付かずに壊疽(えそ)になることがあります。場合によっては足を切断することになります。

 

 

その他の合併症

 その他の合併症は感染症や歯周病があります。糖尿病の患者さんは肺結核・尿路感染症・皮膚感染症などの感染症にかかりやすい状態になっています。とくに足の皮膚感染症は壊疽につながりますので注意が必要です。また、口内での細菌感染が起こりやすいので、歯周病が悪化することが知られています。

 

検査と診断

 糖尿病の検査では血糖値の測定があります。健康な人でも食事のあとは血糖値の上昇がみられますが、インスリンの分泌により血糖値は徐々に下がります。

 早期空腹時血糖検査では検査当日の朝食を食べていない状態での血糖値を測定します。早期空腹時血糖検査で126mg/dl以上で糖尿病型と診断されます。

 随時血糖検査では食後からの時間は定めずに血糖値を測定する検査です。随時血糖値が200mg/dl以上の場合は糖尿病型と診断されます。

 75gOGTT検査では検査当日の朝までに10時間絶食した状態で血糖値を測定したのち、75gのブドウ糖を溶かした水溶液を飲んで30分と1時間後と2時間後に再度測定するという検査です。この検査は高血糖状態で行うとさらなる高血糖状態を招くことになるので、明らかな自覚症状がある場合は診断に必要ではない検査です。

 HbA1cは血液中の赤血球の一種であるヘモグロビン(全身の細胞に酸素を送るはたらきをしている)にくっついている糖化ヘモグロビンを測定する検査です。高血糖状態であればあるほどヘモグロビンに結合するブドウ糖の量は増えます。赤血球の寿命は約120日であり、過去1~2ヶ月の血糖値を測定することができますので、検査直前の食事や運動などの影響は受けない検査となります。

 以上の検査で、

・早期空腹時血糖値126mg/dl以上

・75gOGTT2時間閾値200mg/dl以上

・随時血糖値200mg/dl以上

・HbA1cが6.5%以上

のいずれかで糖尿病型と判定されます。さらに別の日に同様の検査をして再び異常があれば糖尿病の確定診断となります。

 また、この検査で「糖尿病型」「正常型」を判定する際に、どちらともいえない「境界型」とよばれる判定が存在します。これは将来糖尿病の発症のリスクが高いことが示唆されますので、6ヶ月~1年で定期的な検査をすることを推奨されます。

 また早期に食事療法や運動療法を行うことで未然に防ぐことができますので、生活習慣を見直すことが推奨されます。

 

治療

 糖尿病の治療において最も重要なことは血糖値をコントロールすることです。

 薬物療法では、「経口血糖降下薬」「注射療法」が挙げられます。

 

経口血糖降下薬

 ・SU薬(スルホニル尿素薬)は膵臓のβ細胞に作用し、インスリン分泌を促す薬です。

 ・BG薬(ビグアナイト薬)は肝臓での糖新生を防ぐ薬です。また、筋肉のブドウ糖利用を促す働きもあります。

 ・インスリン抵抗性改善薬は脂肪細胞に作用することでインスリン抵抗性を改善し、インスリンの作用を高めることが出来る薬です。

 ・α-グルコダーゼ阻害薬は糖質の分解を抑えることで急激な血糖値の上昇を防ぐ薬です。

 

注射療法

 血糖値を下げるホルモンであるインスリンを直接補充する治療法で、1型糖尿病の患者さんには不可欠な治療となります。2型糖尿病では以前は末期にのみ行われる治療でしたが、食事療法や運動療法、前述の経口血糖降下薬での血糖のコントロールが出来なかった場合や、治療開始時や治療中断時に高血糖状態の場合に用いることも増えました。インスリン製剤は効果時間や持続時間によって超即効型・即効型・混合型・配合溶解・中間型・持続型溶解などのタイプがあり、患者さんの状態に合わせて使用されます。

 小腸のL細胞から分泌されるホルモンであるGLP-1(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド-1)は血糖値を下げるはたらきがあります。GLP-1受容体作動薬は、そのはたらきを注射によって補う治療となります。

 空腹時にははたらかず、食事により血糖値が上がった際にはたらくため、低血糖を起こしにくいですが、他の薬との併用での低血糖に注意が必要となります。また、食欲を抑える作用もあるとされています。

 

その他の治療法

 薬物療法以外にも、食事療法や運動療法が不可欠となります。

 食事療法での適切なカロリー摂取量は、年齢・性別・体格・運動量によって異なります。その患者さんに合った指示カロリー量を超えないことが基本です。特定の栄養素を制限する必要はなく、適正なカロリーを規則正しく摂取することが大切になってきます。

糖尿病の食事療法のポイント|内科専門医師が配信

 運動療法は糖尿病治療の基本の1つです。運動を行うと筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が促進され、血糖値が低下します。さらに、インスリンの作用もよくなり、血糖のコントロールもよくなります。運動の種類としては、散歩や自転車、水泳といった有酸素運動を中心に、筋トレなどの無酸素運動をバランスよく組み合わせるとよいでしょう。

糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ|内科専門医師が配信

 一度発症すると完全に治ることのない糖尿病ですが、血糖値をコントロールすることにより、健康な人と同じように生活を送ることが可能な病気ですので生活習慣や食生活や運動療法を継続して行うことが重要となります。

まずは予防についてもご覧ください
糖尿病の原因を知って予防する|食事と生活習慣を改善して血糖値を下げる

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