糖尿病は完治する?|3つの療法で進行を遅らせる!

2021.08.19

カテゴリー: 糖尿病

予備軍も含め、1,000万人もの患者が存在すると推測される糖尿病。合併症から失明や神経障害など重篤な症状に発展することもあるため、糖尿病の治療の基本である、進行のコントロールに取り組まなければいけません。糖尿病治療の目標と限界、さらに治療の3つの柱である、食事療法、運動療法、薬物療法について紹介します。

糖尿病は完治する?

インスリンの分泌が悪化したり、働きが鈍くなったりすることで、慢性的な高血糖に陥り、さまざまな合併症を引き起こすおそれが懸念される糖尿病。しっかり治療して完治を目指したいところではありますが、糖尿病は一度発症してしまうと、完治させることは難しい病気です。

糖尿病には、おもに自己免疫が原因で発症する「1型糖尿病」と、遺伝的な要素や生活習慣に関係して発症する「2型糖尿病」があります。いずれも目指すべきは血糖コントロールをして進行を抑制して、健康な状態を維持することです。

治療により糖尿病の進行はコントロールできる

糖尿病の治療は、病気の完治ではなく、進行の抑制が目標となります。具体的には、適切な血糖値をキープすることに取り組むこと。これによって病気の進行の抑制や、合併症の予防を目指します。

糖尿病の代表的な合併症には「神経障害」「網膜症」「腎症」が挙げられ、発症すればQOL(Quality Of Life=健康寿命)の低下は避けられません。

QOLを保つために大切な血糖コントロールには、以下の3つの治療法が基本となります。

● 食事療法
糖尿病の食事療法のポイント|内科専門医師が配信
● 薬物療法
 糖尿病は治る時代になった?最新の糖尿病治療について
● 運動療法
糖尿病における運動療法とは│効果を引き出す運動のコツ|内科専門医師が配信

糖尿病治療における血糖のコントロールとは、日常レベルで病気と上手く付き合っていくことを意味します。特に生活習慣の改善は重要であり、食事と運動習慣の見直しは大前提といえるでしょう。ただし、糖尿病のタイプ(1型糖尿病・2型糖尿病)によって、治療の選択肢やアプローチも異なってきます。

食事療法で血糖値をコントロールする

糖尿病は完治する?|3つの療法で進行を遅らせる!

食事は生命維持、エネルギー摂取に不可欠なものですが、食事の内容や量、あるいは食べ方などによっては、糖尿病を悪化させる原因にもなります。

糖尿病治療における食事療法とは、体が取り込む糖の量・エネルギーを適切量に調整することです。適切な調整により、血糖値のコントロールを目指します。

特に生活習慣病との関連も指摘されている2型糖尿病においては、食事療法は運動療法とならぶ基本となる治療方法です。食事療法のおもなポイントには以下が挙げられます。

● 1日に必要な食事量(エネルギー量)を守る
1日のエネルギー量(kcal)の目安は「身体活動量 × 標準体重」の計算で求められます。

身体活動量は職種によっても異なり、デスクワークでは「25〜30kcal/kg標準体重」、立ち仕事では「30〜35kcal/kg標準体重」、力仕事の多い職種では「35kcal〜/kg標準体重」となります。また、標準体重(kg)は、「身長(m) × 身長(m) × 22」で計算できます。

● 栄養バランスのとれた食事を心がける
一品料理ではなく、主食・主菜・副菜で構成した良好な栄養バランスを整えてください。

● 1日3食を、なるべく規則正しい時間で食べる
血糖値をコントロールするには、1日3食を規則正しい時間に食べることが理想的です。

食事療法の効果

食事療法によって標準体重に近づけ、それをキープすることで、インスリンの適切な働きを促します。標準体重を上回っている場合では、インスリンの効きが悪くなるおそれがあります。

食事療法は、1型糖尿病・2型糖尿病のいずれにも必要な治療法で、いわば糖尿病治療の基礎といえます。

食事療法の注意点

食事療法は気を配るポイントも多く大変ではありますが、しっかり実施する必要があります。

糖尿病の食事療法は、ただ単にカロリーを制限すればよいというものではありません。栄養バランスの調整のほか、いつどのように食べるのかといった「食べ方」についての心がけも大切です。

正しい食習慣を身に付け、食事療法を適切に行っていくために、以下の5つのポイントを押さえておきましょう。

● 急がず、よく噛んで食べる
● 脂質と塩分は控えめに
● 腹八分目の食事を心がける
● 食物繊維はきちんと摂取する
● 夜遅くや就寝前には食べない

運動療法で血糖値をコントロールする

糖尿病は完治する?|3つの療法で進行を遅らせる!

糖尿病になりやすい、または悪化させる特徴のひとつに、運動不足があります。逆にいえば、継続的な運動は糖尿病の予防や改善に効果的です。

運動療法は食事療法と並び、一番効果がある治療法と、日本医師会も言及しています。

運動療法には有酸素運動と筋力トレーニングが挙げられます。以下の4つのポイントを押さえておきましょう。

● 運動の強さ(強度)
少しきつめ、と感じられる運動が最適とされます。有酸素運動を中心としながらも、適度に筋肉へ負荷を与える運動が最適です。目安となる脈拍の求め方は「(220-年齢)× 1/2 = 運動時の目安になる脈拍数(回/分)」となります。

● 運動の頻度
運動療法の効果持続は72時間ほどとなるため、最低でも1週間に3回、計150分以上の運動が望ましいです。可能であれば、毎日の運動が理想的です。

● 運動時間
1回の運動時間は30分〜1時間程度が推奨されています。

● 運動時間帯
基本的にはいつ運動してもよいですが、食後の血糖値上昇を加味したタイミングとして、食事から1~2時間後がおすすめです。ただし、血糖値を下げる薬を使用している場合は、低血糖の危険性が少ない時間帯を選んでください。

運動療法の効果

健康的な生活を維持するために欠かせない運動は、糖尿病治療においても大きな効果が期待されます。以下、糖尿病の運動療法の3つの効果を紹介します。

● 糖尿病だけでなく肥満や生活習慣病、認知症などのリスクを下げることができる
運動はインスリンの働きを促し、血糖値の低下に寄与します。これは運動にともなう血流の増加などにより、細胞がブドウ糖を取り込む作用があるためです。この他にも肥満や生活習慣病の予防、さらには認知症のリスクを下げる効果もあるといわれています。

● 筋肉がつくので転倒を予防する
加齢や病気にともなう筋肉量の低下は、転倒など怪我につながるおそれも懸念されます。運動による筋肉増強や機能強化は、怪我の予防にも効果的です。

● ストレスが解消できる、爽快感が得られる
ストレスは糖尿病の発症要因のひとつといわれています。適度な運動はストレス解消にもなり、糖尿病予防にもつながると考えられます。

運動療法の注意点

糖尿病治療には欠かせない運動療法ですが、実践の際は以下の5つのポイントに注意して下さい。

● 運動療法を行う前に医師に相談しよう
糖尿病や合併症の進行具合、あるいは年齢・体力、その他の持病などを考慮すると、運動を制限すべき場合もあります。運動療法を行っても大丈夫なのか、さらに具体的な運動計画についても、まずは医師や専門家に相談してください。

● 食事療法と運動療法はセットで!
運動療法の成果には、正しい食事療法が不可欠です。運動で食欲が増進し、必要以上にエネルギーを摂取してしまっては、かえって糖尿病を悪化させかねません。食事療法と運動療法は1つのセットと心得てください。

● 運動しやすい服装・靴で行いましょう
運動の妨げとならないよう、動きやすい服装や履き慣れた靴で運動してください。季節に合わせ、必要であれば防寒対策なども行いましょう。

● 低血糖に注意
SU薬の服用やインスリン療法などを行っている場合は、低血糖に注意してください。運動時には、低血糖対策としてブドウ糖などを携行しておきましょう。

● 水分は十分に補給する
運動時には、脱水にも注意が必要です。夏の暑い日はもちろんのこと、季節にかかわらずいつでも水分補給できるように準備して、こまめに摂取しましょう。

薬物療法で血糖値をコントロールする

糖尿病は完治する?|3つの療法で進行を遅らせる!

糖尿病における薬物療法とは、薬による血糖値コントロールのことを指します。

1型糖尿病の場合はインスリン療法が不可欠となりますが、2型糖尿病では、まずは食事療法・運動療法から行われます。食事療法・運動療法を2~3か月実施しても血糖値をうまくコントロールできない場合に、薬物療法をスタートする流れです。

また、内服薬(経口血糖降下薬)を飲んでも血糖コントロールがうまくいかない場合は、2型糖尿病でもインスリン療法が検討されます。なお、妊娠糖尿病(妊娠中に妊婦さんが発症する糖尿病)も、インスリン療法が必要です。

薬物療法の効果

糖尿病における薬物療法では、おもにインスリン療法と内服薬が用いられます。インスリン療法は、注射によって直接インスリンを補充する治療法。

インスリンが、すい臓からほとんど分泌されていないケースで選択されますが、短期的にすい臓を休ませる目的で使用される場合もあります。

内服薬は1種類だけを服用するケースのほかに、いくつかの薬を組み合わせて服用することもあります。糖尿病治療で使用される7種の内服薬と、その働きを簡単に紹介します。

● スルホニル尿素薬(SU薬)
すい臓のβ細胞に直接作用し、インスリンの分泌を促します。

● 速効型インスリン分泌促進薬
スルホニル尿素薬(SU薬)と同じ働きですが、短時間で作用する即効性が特徴です。

● ビグアナイド薬(BG薬)
筋肉でのブドウ糖の利用をサポートするほか、ブドウ糖が肝臓で新たに生成されることを抑制します。

● チアゾリジン薬
インスリン抵抗性を改善することで、その働きを良くし、血糖を下げます。

● α-グルコシダーゼ阻害薬
食べ物の糖質・デンプンの分解を抑制し、ブドウ糖の吸収を緩やかにすることで、食後血糖値の急激な上昇を抑えます。

● DPP-4阻害薬
食後のインスリン分泌を増やします。

● SGLT2阻害薬
腎臓における糖の再吸収を抑制。糖を尿から排出させます。

薬物療法の注意点

インスリン療法や内服薬の使用により、低血糖の副作用が懸念されます。 血糖値が低くなりすぎると、冷や汗や強い空腹感、震えなどの症状のほか、さらに重症化すると集中力の低下、痙攣、意識消失、さらには昏睡などにもつながるおそれがあります。

このような症状を自覚したら、速やかに甘いジュースやブドウ糖を摂取してください。チョコレートやアメなどのお菓子も糖分を含んでいますが、消化吸収に時間を要するため、緊急時の手段としては適していません。

上記のような緊急時に備え、ご家族の方はもちろんのこと、周囲の方や職場にも「薬の服用中であり、低血糖になる可能性がある」ということ、およびその対処法をあらかじめ伝えておいた方が良いでしょう。

また、糖尿病以外の病気にかかった場合には、薬の量を調整しなければならないこともあります。その際は主治医に必ず相談して下さい。

予防には生活習慣の改善と継続が必須

糖尿病の発症には、生活習慣の乱れが大きく関係しています。初期段階での自覚症状が少ない反面、症状が現れた時にはすでに重症化しているケースも少なくないことから、糖尿病は「サイレント・キラー」と呼ばれることもあります。

そのため、いまは症状がなかったとしても、早いうちから生活習慣に気を配ることが大切です。

下記の5つのポイントをもとに生活を改善し、健康生活の維持に努めて下さい

● 栄養バランスの良い食事をとる
● 運動を積極的に行う
● 十分な睡眠をとる
● 肥満を防止し、体重を適正にコントロールする
● ストレスが溜まらないよう心がける

まとめ

糖尿病は完治が難しい病気です。したがって治療の目標は、悪化や合併症の予防となり、その基礎となるのが食事療法と運動療法です。食事療法と運動療法をセットで実践し、生活習慣を改善してください。それでも思うような効果が得られない場合には、薬物療法が実施されます。食事療法・運動療法・薬物療法それぞれの注意点を踏まえ、継続的に治療に取り組みましょう。

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